アラビアンナイト6

久しぶりのアラビアンナイトのお話。
三国志とアラビアンナイトの2つは原作が存在しているだけに、
話題性があって非常に興味深い。
今回も人生には必要無い知識のこらむのはじまりはじまり。

今回のお題となるアラビアンナイトの怪しげカードは下記。

Ring of Ma’ruf》(仮訳:マルーフの指輪)
コスト:5
アーティファクト
(5),(T),Ring of Ma’rufを追放する:このターン、あなたが次にカードを引く代わりに、
あなたがオーナーであるゲームの外部にあるカードを1枚選び、それをあなたの手札に加える。
アラビアンナイト:アンコモン

ジャッジメントの「願い」シリーズの元となったカード。
ルール裁定で「なんでもあり」だったものから、
「サイドボードとゲームから取り除かれたカード」に変化し、
今では「サイドボードのみ」になってしまった。
何のためにこの指輪と願いシリーズがあるのか考えてくれと言いたい。
せめてゲームから取り除かれたカードだけは持ってこさせてもらいたい。

さてさて、この《Ring of Ma’ruf》のお話、
話が長いくせに指輪が出てくるのはちょっとだけ。
それでも構わんという人は読んで下さい。

むかーしむかし、カイロの町にマルフという男が住んでいた。
そう、《Ring of Ma’ruf》のMa’rufは人の名前。
読み方はマアルフ、マルフあたりが普通で、マルーフとは読まない気もするので、
ここではストレートに読んだ場合のマルフで呼ぶ。

マルフは靴の修理屋さん。
妻のファティマと貧乏な暮らしをしていた。
こういうお話では夫婦ともに絵に描いたような善良市民と相場が決まっていそうだが、
そうではなかった。
マルフはその絵に描いたような善人。(マルフはアラビア語で善良という意味らしい)
しかし、ファティマは嘘つき、ヒステリー、乱暴と三拍子そろった悪妻だった。
(マルフ、なんでこんな人と結婚したんだ。)
ファテイマについて「美人であった」という記録が無いところから、
おそらく美人でもなかったのだろう。
(マルフ、なんでこんな人と結婚したんだ。)

いくらマルフが善人であっても、
こんな悪妻を持ってしまったら夫婦喧嘩も耐えなければ、
生活も思うようにはならない。
周囲も同情してマルフには優しく接していたが、
貧困生活に変わりはなかった。
そんなある日、夫婦喧嘩をした際、
マルフはあまりのファティマの傲慢さと乱暴な言葉に腹を立て、
つい手が出てしまった。

殴られたファティマは即座に数倍返しをした挙句、
役所に「夫に暴力をふるわれた」と訴えに行ってしまった。
(マルフ、なんでこんな人と結婚したんだ。)
役所の官吏に引っ立てられてしまったマルフ。
さすがに官吏もマルフだけが悪いなどとは判断しなかったため、
罰せられる事は無かったが、
問題は別にあった。
当時の慣わしでは官吏に賄賂を贈らないといけなかった。
貧乏な靴修理屋ではそれをひねり出すにも無理があった。
仕方なく、仕事道具を売り払ってお金を作った。

我慢を重ねてきたマルフもここが限界。
仕事道具も売り払った残り金を持ってそっと町を出た。
何処へ行くというあてもなく、荒れたお寺にたどり着いた。
そこでマルフはアラーにお祈りをした。
その途端、
突然に荒れ寺の壁が崩れ、壁から魔人があらわれた。

「私は壁に閉じ込められた魔人。
私を呼び出したものの願いを叶えないと、
壁に閉じ込められてしまうのだ。
さあ、願いを。」
(封印されていた壁が崩れているのにこいつは何処に封印されるんだろう。)
戸惑ったマルフだったが、
「何処でもいい!二度と妻に会わないで済む、遠い地へ私を連れて行ってくれ!」
(貧乏な人なのにお金より先に離別を選ぶなんて、よっぽど嫌だったんだな。)
魔人はこれを承諾し、
マルフを遠い地へ連れて行った。
魔人はその願いを叶えると即座に消えてしまった。

遠い地で幼馴染のアリと再会した。
(”二度と会わないで済む遠い地”に幼馴染がいるくらいじゃ、そんなに遠くないんじゃ?)
マルフはアリに町の事を教えてもらった。
アリ「ここではお金を持っていない奴はダメだ。お金こそが信用の町だ。
マルフ、君には私から1000ディナールを貸してあげよう。
服と馬も貸してあげよう。
今の君は何も持っていない。
だが、君はカイロから来た大商人だと私がふれ回る。
みんなは『◯◯はあるか?』と聞いてきたりするだろうから、
全てあると答えて信用を得るんだ。
信用を得たらそこから商売を始めるんだ。」
持ち前の人の良さゆえか、幼馴染も随分と尽くしてくれた。

次の日、
マルフはその1000ディナールを持って町の広場へ向かった。
余裕の表情、身なりの良い服装、落ち着いた態度に誰もがマルフを大商人だと信じた。

そこへ乞食がやってきて、
「どうか、私めにおめぐみを」
マルフはそんな乞食に快く金貨を与えた。
これには周囲も驚いた。
乞食に金貨という大金を与えると誰もが思わなかったからだった。
金貨をもらえるというので、乞食は列を作って並んだ。
マルフは嫌な顔1つせず、全ての乞食金貨を与えていった。

もちろんそんな事をしたので、
すぐにでもアリから借りた1000ディナールはなくなってしまった。
マルフ、少しも慌てず、
「私は初めて来た町に対して、このようにするのが慣わしなのだが、
手持ちのお金が尽きてしまった。
私の隊商が到着すればすぐにでもお金は返そう。
誰かお金を少々貸してくださらないだろうか?」
と堂々と言い放った。
多くの商人が「この男なら!」と思い込み、
マルフにお金を貸し与えた。
そうして借り受けたお金は夕方までに全て乞食に配りつくし、
マルフには60000ディナールという多額の借金だけが残った。

さすがのアリもこの60000ディナールという借金には驚いたが、
当のマルフはどういうわけか平然としていた。
それから数日、
当たり前の話ではあるが、隊商など到着するわけがない。
貸し付けた商人たちも少しずつ少しずつ不安になっていった。
そんな折、
マルフの噂は都の王の耳にまで届いた。

王はその噂を聞き、
「いくらなんでも乞食に60000ディナールも施す馬鹿は早々いない。
よほどの金持ちであるに違いない。
それだけの金持ちであるのなら、わしも仲良くしておいたほうが得策だ…。」
こんな事を考えた。
(おいおい、王様、随分と欲ボケしてないか?)

王様、早速マルフを自分の屋敷に呼び寄せた。
「おぬし、マルフと申したな。町の商人たちから随分と借金をしているとか…。」
「大した額ではありません。私の隊商さえ到着すれば、全て倍額にして返す予定です。」
「倍額じゃと?おぬしどれだけの商売をし、どれだけの品を取り扱っているというのだ?」
「古今東西あらゆるものを。お望みとあらば王様にもその品を献上いたします。」
「ふむ…。」
ここでもひたすらハッタリをかましつづけるマルフ。
(どうみても靴の修理屋しながら悪妻にドメスティックバイオレンスされる男のハッタリじゃないぞ。)
一国の王相手にここまでハッタリをかますとは王様も思わず、
マルフを本物と信じ込んだ。
マルフの聞く限りの財力、そして話しぶりと身なり、それらをいたく気に入った王様は、
「よし、わしの一人娘のドゥニャをおぬしにやろう。」
と結婚の約束までしてしまった。

さあ、これを聞いて黙っていられなくなったのは王様につかえる大臣。
ドゥニャ姫に一度求婚するも見事にフラれているところに、
突然出てきた謎の男が国の実権と美人のお姫様の両方を持っていくというのだから。
とはいえ、
立場上下手な事は言えないだけに、ただ黙っているより他は無かった。

60000ディナールの借金、王様への献上品の約束、
とんでもない状況になってしまったマルフ。
王様は隊商の到着を信じ込んで、
マルフとドゥニャを結婚させてしまった。
前妻と違って美しく、器量の良いドゥニャ姫にマルフは夢中になった。
仲睦まじい結婚生活は良かったが、
当然の事ながら、隊商は時間が経っても到着しない。

さすがの王様もこれは少々不安になってきた。
最初からマルフの事が嫌いだった大臣は、
これこそ付け入る隙とばかりにマルフを悪く言った。
「王様、あのような男を信じてはいけません。奴は詐欺師でしょう。
お疑いであれば姫に確かめさせましょう。
あの男も自分の妻には嘘を言いますまい。」
隊商が到着しない不安から、王様はこの大臣の案を承諾した。

その日の夜、いつものようにマルフと寝室に入ったドゥニャは
「私は心の底から貴方を愛しています。
だからこそ私との間には嘘があってほしくありません。
何があっても貴方を嫌う事もありませんから、
本当の事を言ってくださいませんか。
隊商はいつ到着しますか?
貴方は本当にカイロの商人なのですか?」
とマルフに問うた。
王や大臣の事もあったが、ドゥニャ自身の本心でもあった。
ドゥニャの真剣なまなざしにマルフは全てを正直に話す事にした。

「すまない。私は本当はカイロの商人でもないし、隊商は来ない。
カイロで靴の修理をしていたが、
悪妻に耐えかねて逃げてきただけなんだ…。」
ドゥニャは全てを知っても何も動じなかった。
「私は先程の言葉に嘘や偽りはありません。
何があっても貴方の事を愛しています。
しかし、町の商人も大臣も王様も貴方を疑っている事には変わりがありません。
これ以上は隠し通せないでしょう。
私は今から多少のお金を融通します。
それを持って今から逃げて下さい。
そしてそのお金を元に商売を成功させて私を迎えに来てください。」
「しかし…」
「大丈夫ですよ。私を妻にする男は幸運に恵まれると言われていますから。」
「そうか。すまない。時間はかかるかもしれないが、必ず戻る。
そして旅立つ前にもう一度そなたを抱かせてくれ。」
(立場がヤバいというのに、何をHな事を始めているんだ、この男は。)

次の日、ドゥニャはマルフが出て行った事について、
王様や大臣には「隊商を迎えに行った」とごまかした。

一方マルフは町を出て、少し離れた農村まで逃げ延びていた。
その農村で畑を耕している農夫に話しかけた。
「すまないが、何か食べられる物が欲しいのだが…。」
「ここらは食べ物屋も宿屋もなんにも無いよ。
ちょっと待っててくれ。
家まで行って食べ物をとってきてあげよう。」
と農夫はマルフのために鋤を置いて、その場を去った。

取り残されたマルフは、
自分のために仕事を放棄してくれた農夫のために、
少しでも畑を耕しておいてあげる事にした。
畑を耕して少しした時、ガキン!という硬い音がした。
どうやら鋤が何かに当たったようだ。
土をかき分けてみると、そこには取っ手のついた石版があった。
その石版を開けてみると階段があり、地下室へ続いていた。
マルフは畑仕事も忘れ、その地下室へ入っていった。

地下室の中は宝石でいっぱいだった。
その宝石の数々は、
商人に借りた60000ディナールを返してもまだ余りある、
というほどの量と価値だった。
その宝石だらけの地下室の一角に一際異彩を放つ金色の箱があった。
宝石の数に驚きながらもマルフはその金色の箱を手に取り、開けてみた。
箱の中には指輪が1つ。
マルフには読むことの出来ない文字で何か刻まれていた。
(ここまで来てやっと登場してくれた《Ring of Ma’ruf》)

マルフがその指輪を手にした途端、
地下室に大きな魔人があらわれた。
「ご主人様、なんなりとご命令を。」
地下室の宝石に驚いたマルフだったが、
指輪から魔人が出てきて二度びっくり。
ともかく、自分の言う事を聞いてくれるというので、
「500人の奴隷、500頭の馬を用意して、
ここにある宝石を全部積んで隊商を作ってくれ!」
と魔人に命じた。
マルフ自身は魔人にそれを命じると、
地下室を駆け上がり、石版の埋め、綺麗に証拠を隠滅した。
(おい、靴の修理屋の頃と完全に性格変わってるぞ。)

そこへ食べ物を用意した農夫が戻ってきた。
証拠を隠滅して魔人が動き始めている事がわかっているマルフは
「ありがとう。実は私は国王の姫、ドゥニャの夫なのだ。」
「そ、そのような方が何故このようなところに?!」
「すまない、王と少々口論になってしまい、飛び出してしまった。
少しここで考え事をして考えもまとまった。
用意してくれた食べ物をいただいたら帰る事にしたよ。
貴方の好意は忘れない。
これはほんのささやかなお礼だ。受け取ってくれ。」
と金貨を農夫に渡した。
(マルフ、態度変わりすぎじゃないか?)

そして、農夫との食事が終わった頃、
魔人が隊商を編成してやってきた。
「ご主人様、全てのご用意が出来ました。」
「よし、では行くとしよう。」
こうしてマルフは都に戻る事になった。

マルフの意気揚々とした凱旋に最も驚いたのはドゥニャだった。
当分の間は会えないと思っていたにも関わらず、
昨日の今日でマルフが500人の隊商を連れて戻ってきたのだ。
「一体何があったの?!」
「心配させたな。」
「何があったの?」
「騙して悪かった。そなたを試していたのだ。
何も持たない私でも愛してくれるかどうかを。」
(あんた、よくそんな事言えるな。)
マルフはドゥニャを抱きしめた後、
商人への貸しを本当に2倍にして返し、
王様へも山のような献上品を捧げた。
誰もが幸せな空気に包まれていた。
ただ一人、大臣を除いて。

マルフが帰ってきてから数日したある夜のこと、
大臣はマルフを酒に酔わせ、指輪の秘密を聞き出した。
そして、マルフの部屋から指輪を盗み、魔人を呼び出した。
「ご主人様、なんなりとご命令を。」
「マルフと王を帰って来られない程遠いところへ連れて行け!」
「かしこまりました。」
マルフを排除した大臣はドゥニャの寝室に行き襲いかかった。
(排除したからって自分に振り向くわけでもなかろうに。)

ドゥニャはマルフから指輪の事を聞いていたので、
大臣に従うふりをして、ベッドに誘い、指輪を外すように言った。
そして、大臣が指輪を外した途端に大臣を殴りつけ、気絶させた。
気絶させた後に即座に指輪の魔人を呼び出した。
「ご主人様、なんなりとご命令を。」
「マルフ様と父をここに戻し、この大臣を地の果てに追放してほしい。」
「かしこまりました。」
さすがは魔人、仕事が早い。
大臣が目の前から消え、二人がドゥニャの前に戻ってきた。
ドゥニャとマルフ、そして王様は再会を喜び、
その後、王様の命令で大臣を呼び戻し、大臣は処刑された。

それから数年後、王様はマルフとドゥニャに見守られながら天寿をまっとう。
マルフは新しい王として君臨した。
跡継ぎも生まれ、順風満帆というところで何故かドゥニャが死んでしまう。
(どういうわけか死因は書いていない。)
失意のマルフのところに、靴の修理屋時代の妻ファティマがマルフの噂を嗅ぎつけてあらわれた。
(おい、最初の魔人よ、二度と会わないで済む程の遠い地ではなかったのか。)
狡猾で汚いファティマに王座を奪われかけるマルフだが、
最後の最後で指輪の魔人でこれを撃ち倒し、めでたしめでたし。

はて、最初にマルフに先行投資してくれたアリにお返しをしたという描写がないが、
マルフはしっかりお返しをしたんだろうか。

——————————————
Ring of Ma’ruf》はこんなお話。
MTGのカードの能力とこのお話がどのへんがつながっているかというと、
MTGの《Ring of Ma’ruf》は
「ゲームの外部にあるカードを1枚選び、それをあなたの手札に加える。」
という能力。
お話の中の《Ring of Ma’ruf》は、
・その場に無い、欲しいものを用意。(500人の奴隷と500頭の馬)
・邪魔者を排除。(大臣がマルフと王様を追放。)
・追放されたものを戻す。(ドゥニャがマルフと王様を戻す。)
・邪魔者を排除。(マルフがファティマを倒す。)
の4つで活躍。

そのうちの2つ、
「その場に無い、欲しいものを用意」
「追放されたものを戻す」
という力がそのままMTGの能力に反映されている。
もっとも、MTGの《Ring of Ma’ruf》は使うと指輪そのものが消えてしまうが、
お話の中の《Ring of Ma’ruf》は最低4度使っている。
さすがにゲームバランス上、使っても消えない能力には出来なかったのだろう。
とはいえ、

「その場に無い、欲しいものを用意」→サイドボードを手札に加える。
「追放されたものを戻す」→追放されたカードを手札に戻す。

という事を考えると、
Ring of Ma’ruf》や願いカードは元のルールに戻してほしいものである。

自分もこの《Ring of Ma’ruf》の逸話を知ったのは20歳を超えてからだったが、
MTGの世界でもこれを知っている人はそんなに多くないのではなかろうか。
MTGで基本セット以外で一番最初に出たセットにして、
こんな素晴らしいセンスでカードを作っているのだから脱帽ものである。
製作者のアラビアンナイトへの造詣の深さと愛情を感じる1枚である。

アラビアンナイトのお話は教訓や勧善懲悪などはとくに重視しておらず、
「不思議なお話がありました。終わり。」
という感じのものは多い。
実際にこのマルフさん、前半は悪妻にいじめられる善良な夫だが、
中盤以降は嘘付きが成功するだけとも言える。
姫と結婚したあたりになると完全にただのヒモと化している。
とはいえ、姫をの心を射止めたのはマルフの実力と言えなくはない。
マルフは余程の美男だったという事だろうか。
世の中、美男美女は放っておいても得をするというのは、
大昔も今も変わらない。

なお、このお話はアラビアンナイトのシャハラザードが話す、最後のお話として伝わっている。

ではまた。

ブログに戻る