贋物。
記事作成日:2011/01/11 執筆:加藤英宝
このこらむを読んでいる方々は、
ニセモノに出会ったことがあるだろうか。
自分は10年程前に一度そこそこ精巧に作られたPower9を見たことがある。
Power9と言っても全てではなく、Unlimited版の《Mox Emerald》1枚。
プレミアイベントの会場で外国人が売っていた。
値段を聞いたら、相場の半額程の数字を言われた。
本物だったら明らかに買いの値段だったが、
あまりに怪しいので買うのをやめておいた。
その《Mox Emerald》は他のカスレアやコモンと同じに無造作に置かれていたからだ。
当時はまだ自身の鑑識眼は育っていなかったが、
それでも少し変わった印刷だと感じる品だった。
その後は偽物と呼ぶにはあまりにお粗末なシロモノを見たことはあった。
一例を挙げると下記のようなものだった。
MTGには、コレクターズエディションと呼ばれるものがある。
(インターナショナルエディションを含む)
これはBetaのコンプリートセットとして記念に販売されたものだが、
普通のカードは異なる点がいくつもある。
・カドが直角になっている。
・裏側の黒枠部分が金枠になっている。
・裏側のMagic the Gatheringのロゴの下にCollector’s Editionと書かれている。
(インターナショナルエディションの場合はInternational Edition)
このコレクターズエディションのカドを削って、
現在のようなカットにしたものを見たことがある。
ネットオークションでこれを「本物のPower9」として販売した人がいたらしい。
裏側が金枠なので、商品到着後に秒で偽物とバレる。
常識を疑うレベルだが、やる人はやるということだろう。
何年も前の話ではあるが、
カナダでPower9を偽造した集団が摘発されたと聞いたことがある。
その偽造品のクォリティは一切わからない。
友人の「あんなものは偽物というには無理があるレベル」という言葉から察するに、
案外見分けのつく品だったのかもしれない。
さて、本題に移ろう。
最近、自分はPower9の偽物を手に入れた。
品は《Mox Emerald》のBeta版。
お客様で
「買取をしてほしい。」
と送られてきた1枚だった。
見た瞬間から「これは何かおかしい。」と感じた自分は、
お客様に連絡をとった。
簡潔にまとめると、
・そのお客様はヤフーオークションで2年前(2008年)に買った。
・買った時からおかしいと思っていた。
・出品者に問い合わせたが「本物だ」と言われた。
・今もその出品者は普通にカードを出品している。
・そのカードが偽物であったら諦めるが、本物であっても買取をしてもらいたい。
ということだった。
この《Mox Emerald》をオークションに出品した人は
「この《Mox Emerald》は偽物かもしれない。」
と一瞬でも疑っていて出品したのであれば悪質だ。
それほどの品だった。
ヤフーオークションでは評価というシステムがあるが、
この評価が高いからといって真贋の区別がつくという事とは別物である。
あくまであの評価の高さは過去の取引の回数を示すものであって、
「評価が高い相手は信用出来る可能性がある。」
というだけに過ぎない。
《Mox Emerald》の真贋の判断、
時期は2010年12月の上旬であったこともあって、
偽物かどうかを判定するには都合の良い時期だった。
日本で世界選手権が行われる。
自分はこの世界選手権のCARDHAUSのブースのお手伝いをする事になっていた。
CARDHAUSの社長、そして社員の1人にもこのカードを見せてみた。
2人とも答えはほぼ同じで、
「偽物と完全に断定する根拠は無いが、
これほど精巧に作られたものは初めて見た。」
と多少矛盾しかねない言い回しではあるが、
ともかく本物ではないだろうと、自分を含めて3人の意見は一致した。
さらに、ここに知り合いのジムという人にも見せてみた。
海外のショップTroll & Toadと言えば知ってる人もいるだろう。
このTroll & Toadの元社員だ。
カードの扱いにかけてはプロと言える1人だ。
ジムに見せた瞬間、
「No」
シンプルだが説得力のある一言だった。
彼は、
「このカードを買い取れと言われたら、買わないよ。」
と付け加えた。
画像を用意したので、このこらむを読んでいる人にも見てもらいたい。
画像だと極端なほどの違和感を覚えないかもしれない。
カードの黒枠部分とイラスト部分の色合いが少しおかしい事がわかるだろうか。
自分の持つBeta版のカードは200枚以上あるが、
こんな印刷のものは1枚も無い。
200枚以上のコレクションに加えて、
自分が扱ってきたBeta版のカードは1500枚を超えるだろう。
1/1700である可能性も否めないとも言える。
が、この1枚だけが印刷がおかしいという事はやはり少々考えにくい。
根拠は他にもあった。
実際に画像ではわからないものだろうが、
他のBetaのカードと比べてみると、
裏側からでもこの偽物は見分けがついてしまう。
Betaの印刷はおおむね少し濃い目の印刷のため、
裏側のMagic the Gatheringという面も最近の印刷に比べて少しだけ濃い。
しかし、この《Mox Emerald》は最近の印刷のようなカードだ。
そして画像として撮るには難しいため、アップできなかったのだが、
カードを真横から見ると、厚さが一定ではない。
いくらなんでもこんな事は通常では考えにくい。
「断定はしないが、
カードの表面をなんらかの手段で剥ぎ取り、
上から《Mox Emerald》を印刷した紙を貼ったと考えられる」
とCARDHAUSの社員は言った。
自分もこの意見は濃厚と考えた。
お客様には残念な結果をお伝えする事となった。
元Troll & Toadのジム、
CARDHAUSの2人、
Cardshop Serraの自分、
扱ってきたPower9の数はこの4人だけで相当数になるだろう。
MTGを取り扱って長い、しかもこれだけのメンバーが全員偽物だと言ったのだから、
ほぼ間違いなくこの《Mox Emerald》はどこかで偽造されたものと判断した。
そしてこの4人が出会ったことがないほど「よく出来た偽物」だった。
この4人は騙せなくても、素人を騙すことは出来るとも言える。
このお客様には、
「もし支障が無ければ、この《Mox Emerald》をCardshop Serraが偽物として紹介し、
画像を添えてこらむに書こうと考えている。」
という旨を伝えたところ、了承していただいた。
ここまで読んだ方、
ちょっとここで考えてもらいたい。
これまでに書いてきた情報を頭の中でまとめてみてほしい。
ある事実に気付くはずだ。
・この偽物は約2年前(2008年頃)にお客様がヤフーオークションで落札した品。
・この偽物を出品した人が故意だったか、それとも本物だと信じて出品したかは不明。
・偽物は《Black Lotus》でも《Ancestral Recall》でもなく《Mox Emerald》。
・アメリカ在住の3人が出会ったことのない偽物だった。
気付いただろうか。
《Mox Emerald》だけではなく他のPower9の偽物も存在するだろうという事。
誰かが気づかないままオークション出品やショップ販売をしている可能性もあるという事。
それが最低でも2年前から出回っている事。
そして、
アメリカ在住の3人が出会ったことがない偽物という点から、
これは偽造され、出回った場所がアジア圏という可能性もあるという事。
とはいえ、これだけは情報が少ないだけに想像の域を超えられない。
Power9は一番安い《Timetwister》でも万単位だ。
一般的視点であれば《Timetwister》であろうと決して安い買い物ではない。
安くない買い物をして偽物であったら…と考えると非常に恐ろしい。
Power9だけと限らない話ではあるが、
お買い物をする際は十分に気をつけて欲しい。
また、
もし偽物疑惑のある商品を手に入れた際はCardshop Serraに一報いただきたい。
今後も被害者を少なくするためにもこういったかたちで紹介したい。
ではまた。