飛翔/Soar

2016年最初のこらむ。
店主の友人の1人になかなか面白い人がいる。
前回のジャンドに青が入ってるに続き、
店主の友人のお話。

3年程前だっただろうか。
その友人の顔も名前も店主は知らなかった。

ある日、その人はメールをくれた。
「Cardshop Serraで《Black Lotus》を買いたい。」
と。
住所を見たら四国だったので、
いつもと同じで発送するのだろうと思っていたら、
直接お店に来て買うという。
待て待て、ここは静岡県。
四国からここまで安い交通手段を使ったとしても、
デュアルランドの1枚も簡単に買える金額がかかるけれども、
それでもいいというのだろうか。
こちらとしては、
お客様が来るというのだから、
もちろんの事、断る理由はなにもない。

そして、当日、お店に来て《Black Lotus》お買い上げ。
「古いカード、特に《Black Lotus》買うなら、
 Cardshop Serraしかないと思ってたんですよ。」
と嬉しい一言。
遠い四国から直接店舗に来てくれて、
こういう一言をいただけるのは本当に嬉しい。

買い物が終わった後もずっとお話をしていたら、
この人はとても変わった経歴と名前を持っていた。

名前は飛翔。
飛翔
読みはそのまま「ひしょう」だ。
どうしてこらむタイトルが《飛翔/Soar》だったかはこれでわかっただろう。
カードの効果とは何も関係がない。
カード名に自分の名があるのはちょっとうらやましい。

自分の名も結構変わっているので、
変わった名前には時折親近感を覚える。
いわゆるDQNネームは論外だが。
変わっているけれども良い名前と、
なんと読んだらいいかわからない当て字の馬鹿ネームは全くの別物だ。
そういえば、
出会った人の中にそういう名は見たことがないが、
友人のいとこに(会った事がない。)、

「美似依」

という名の子がいる。
読みは夢の国のネズミのメスのほう。
親が相当な夢の国信者で、
男の子が生まれていたらオスのほうの名をつけていたそうだ。
男の子のほうだったらどんな字だったのだろう。
男女どちらであろうと、
大人になった時、就職の面接時、年老いた時に非常に困りそうな気がする。
こういう名前を見ると、
珍しくて良い名をつけてくれた両親に感謝する。

さて話を戻そう。
彼の経歴については、
日本人ならかなりの人が知っている、
知名度のあるティッシュペーパーの会社に就職したが、
ある時に四国のカードショップのオーナーの事を気に入り、
「働きたい!」
とオーナーに頼み込んだそうだ。
ところがオーナーは、
「いや、別に1人でやっていけるし、いらない。」
とお断り。
飛翔さんのすごいところはここからだ。
断られてから半年間、
会社とカードショップは全く違う方向にあったし、
自宅からもそれほど近くもないというのに、
毎日毎日カードショップに通いつめ、
そのオーナーに「働きたい」と頼み込んだという。
そして、半年の時間が経過し、
ついにオーナーがおれた。
よほどそのオーナーの事を尊敬していたのだろう。
それだけ尊敬されるオーナーは素晴らしいし、
行動し続けられる信念を持つ飛翔さんも素晴らしい。

そして飛翔さんはこのカードショップで働き始めた。
2016年で勤続10年を迎える。
この10年で結婚し、子供も生まれ、
順風満帆の人生と言っていいだろう。
飛翔さんは今、このカードショップではオーナーの大切な右腕となり、
オーナーの仕事には飛翔さんは一切触らない、
飛翔さんの仕事にはオーナーは一切触らない、
というかなりの信頼関係が築かれている。
10年も勤めれば当然だろ、と思う人もいるかもしれないが、
そんなに簡単な事ではない。
サラリーマンとして10年同じ会社に勤める人はとても少ない。
親方日の丸と言われる公務員や安定している上場企業ならば話は別だが、
中小企業に勤続10年はとても難しい事でもあるし、
それだけではない。
これは多くの社会人が知っておかなければならない言葉で、
「余程の才能や下積みが無い限りは会社に入って3年は赤字の人材。」
というものがある。
勘違いをしがちな人が多いので、
しっかりと書いておきたいところだが、
この余程の才能や下積みをした人というものは一万人に一人いればいいほうである。
つまり一般的には会社に入った人の大半は、
その会社にいて最低3年の時間は赤字の人材なのである。
これは社会人経験がそれこそ勤続10年を超えた人や、
自分を少し謙虚に見られる人なら常識と言える一言。
逆に、社会人経験の足りない者、特に大卒して数年以内の者は、
「俺がいないと会社が回らない。」
「直属の上司が使えなくて困る。」
などと自分の思慮と経験の浅さを棚に上げて言う事が多い。
同じ場所に10年勤めてからでなければ、
こういった事を言う資格はない。
それに10年勤続でも戦力になるとは限らないのだ。
10年経っても無能は無能である。
必ず3年を超えたら戦力になるというわけでもない。
そういった意味で10年勤続とオーナーの片腕になる事は、
なかなかに難しい事なのだ。
「継続は力なり」
である。
長続きしない者にはわからない大きな力である。

そんな飛翔さんが《Black Lotus》を買いに来た日は、
お互いの身の上話をしたり、
お互いのショップの話をしていたら、
初対面とは思えないほどの意気投合。
四国と静岡という距離でなかったら、
もっと長く話していたかった。

再会を約束し、この日はお別れした。
その後、彼は年末に連絡をくれた。
「仕事の都合上、連休がとれる日が年末くらいしかないので、
 その年末に静岡に行ってもいいですか?」
と。
店主は、
「こちらは嬉しい限りだけれど、
 家族サービスしなくて大丈夫?数少ない連休でしょ?」
と一応常識的な返答をしたが、
飛翔さんは
「大丈夫です。」
と言ってくれた。
この話は2014年の末の話。
2014年あたりから飛翔さんはEDHを始めた。
どっかのカードショップの店主の影響だそうだ。

先日の2015年末も飛翔さんは来てくれた。
相変わらず家族サービスしなくていいのだろうかと思うところもあるが、
会いに来てくれるのはとても嬉しい。
今回、彼はEDHのデッキを持ってきていた。
ジェネラルは《ラクァタス大使/Ambassador Laquatus》だった。
店主や他のお客様と10回以上対戦をしたが、
全くジェネラルが着地しないため、
「《ラクァタス大使》が大使館に引きこもって出てこないし、
 ジェネラル変えたほうがいいんじゃない?
 引きこもりじゃないやつに。」
とアドバイスし、
飛翔さんはジェネラルを
時間の大魔道士、テフェリー/Teferi, Temporal Archmage》に急遽チェンジ。
突然に勝率が変わるほどの変化を遂げた。
が、驚くべきは勝率の変化よりも、
彼のデッキのお値段だった。
どっかのカードショップの店主並みである。
青単のデッキにも関わらず、相当な気合の入りよう。
さらっと計算しただけでも50万円を軽く超えるデッキだった。
Timetwister》もしっかりβ版だ。
「白枠持ってたんですが、やっぱり黒枠が良くて。」
どっかのカードショップの店主みたいな事を言っている。

なお、飛翔さんはお酒を飲まない。
そのため、2人で会う際には居酒屋にも行かないし、
家でお酒を飲む事もない。
多少ならMTGをするのだが、
それよりもお互いの仕事に関係する話のほうがよほど多い。
店主は一向にかまわないのだが、
飛翔さんはたまの休みでせっかく静岡まで来て、
結局仕事に関係する話でいいんだろうか?
なんて心配をしてしまうくらいだ。

そして帰る頃には
「時間が足りないね。」
という話題になる。

この飛翔さんに聞いてみた。
「どうしてCardshop Serraを選んでくれた?
 あと、わざわざどうして直接お店に来ようと思ったの?」
と。
飛翔さんは、
「Cardshop Serraのこらむを全部読んで、
 古いカード買うならここしかないなと思ったのと、
 MTG歴の長さやMTGへの造詣の深さ、
 それとその経営を見て、
 一度オーナーの顔とお店を見てみたかったんですよ。」
と回答してくれた。
コレクター冥利と言うべきか、
MTGプレイヤー冥利と言うべきか、
ここまで褒めてもらえるとは思わず、
嬉しさと同時に驚いてしまうほどだった。

長くMTGにたずさわり、
長くショップを経営していると、
こんな出会いもあるのだなぁと思いつつ、
大変でも続けているとこんな事が起きてくれるんだなぁと思った。

四国と静岡、なかなか会えない距離ではあるけれども、
これからもこのお付き合いを大切にしたいと思った1人だった。

ではまた。



記事作成日:2016/01/09



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