コレクター道2

コレクターの道は修羅の道。

世の中、同じ人間でも色々な種類の人がいる。
マジックだけでもそれは色々なかたちで見ることが出来る。
プレイヤーもいれば、コレクターもいる。
ジャッジや大会主催専門でプレイヤーやコレクターを引退している人もいる。
それら全てから離れ、お店を経営する人もいる。
プレイヤーも辞めず、コレクターも辞めず、お店を経営しながら、
突然マジックの変なこらむを書き出す変人もいる。
今回のお話もプレイヤー話からは離れ、コレクター話を。

日本人はコレクター気質が多いのか、
状態へのこだわりは一般プレイヤーでもかなり多い。
うちのお店では状態に対する苦情は1年に1つか2つというところだが、
とある知り合いの外国人はぼやいていたのを聞いたことがある。
「日本人は状態にこだわり過ぎだよ。
それなりに買い物はしてくれるのはいいことなのだけれど、
状態に対してうるさすぎて困る。」
と。
これは価値観の相違に拠るところが大きい。
ハッキリ答えを言うと日本人が間違っている。
日本人の多くの人が、
「Near Mintには傷がない。」
という認識をしている事が原因となっている。
海外でも日本でも、
お店やオークション出品者はトラブルを避けるため、
パックから開封したばかりのシングルカードであろうと、
「Near Mintです。」と表記する事は多い。
ある程度のカードはパックから開封しただけの品であれば、ほぼMint状態である。
これをNear Mintと呼ぶ感覚が染み付いていると、
「Near Mintには傷があるものだ。」という認識がどうしても頭に入りにくい。
病的な人になると、
「この世にMint状態のカードは存在しない。
人間の指紋1つでもついてしまえばそれはNear Mintだ。」
などと言い出す人までいる。
海外のプレイヤーは日本人に比べてアバウトな人たちは多い。
案外とカードの扱いにぞんざいだったりするだけに、
このMintやNear Mintの認識がずれてしまっている。

自分が認める、数少ない超がつく強さを持つプレイヤーにして、
我が親愛なる友人、Seth Burnもそんなアバウトな一人だ。
日本に遊びに来た際に、EDHのデッキを持ってきた時も、
青単のデッキをノンスリーブでプレイしていた。
デッキの中は
《Force of Will》や《否定の契約/Pact of Negation》、
《火と氷の剣/Sword of Fire and Ice》などの高いカードが満載だった。
Sethはカードがボロボロになろうが曲がろうが、
一切お構いなしにガッシャガッシャとシャッフルしていた。

Serra「Sethはマジック歴どのくらい?」
Seth「Unlimitedくらいからやってるよ。」
Serra「じゃあ《Black Lotus》やMoxも持っている?」
Seth「いいや、持ってないよ。」
Serra「何故?」
Seth「前にバスケットボールと交換しちゃったよ♪」
Serra「ば、ばすけっとぼぅる!?」
Seth「うん。ところで《Black Lotus》は今いくらぐらいなんだい?」
Serra「Unlimited版でも$1000くらいするよ。」
Seth「オウ、あのバスケットボールは$1000か。ハッハッハー♪」

ハッハッハーじゃないだろ…と心の中で思いつつも、
このアバウトな友人により好感の持てた日だった。
このアバウトさはもちろん彼だけではない。
世界選手権やプロツアーで見るとよくわかる。
ブースタードラフトやシールド戦のデッキをノンスリーブでプレイしている人は何人もいた。
気にしない人はとことん気にしないのだ。
マジックの初期の頃はスリーブなんて無い時代もあったので、
Sethのように自分のカードなら気にせずノンスリーブという人は少なくなかった。
ボロボロになってデッキで使用出来ないレベルになっていく事も普通にあった。
アバウトさ、そして10年を超える時間によって、
多くのカードが使い物にならなくなった事は間違いない。

「この世にある《Black Lotus》の数は約20000枚。」

こんな言葉を聞いたことがあるだろうか。
前置きが随分と長くなってしまったが、
この言葉が今回のお話の主旨だ。

20000という数字、これは《Black Lotus》に限った話ではない。
Alpha、Beta、Unlimitedにだけ存在するレアカードはどれも同じくらいだ。
ただ、それらのカードの中で最も高価なカードが《Black Lotus》であるため、
こんな表現の仕方をされているのだろう。
実際にこの数字は正しくない。
この数字は現存枚数ではなく、発行枚数だからだ。
プレイヤーがカードを紛失したり、捨ててしまったり、
使い物にならなくしてまう事はある。
自分が10年以上前に勤めていたカードショップの店長など、
あまりにだらしない生活を送るあまり、
《忍び寄るカビCreeping Mold》に本当にカビを生やした挙句、
《不死身/Invulnerability》のカードを腐らせて殺してしまった事がある。
聞いただけでは作り話だと思うレベルだが、
本当の事だ。
事実は小説より奇なりとはよく言ったもの。
この店長のようなな事をした人など二人といないだろう。
この店長はいろんな意味でレアケースとはいえ、
大昔のカードたちに限らずカードがダメになってしまう事はある。
もう《Black Lotus》もMoxシリーズもこの世に20000枚も存在していないのだ。

それに恐ろしいゲームの仕方を知っているだろうか。
その名をアイアンマンマジックという。
日本では鉄人マジックと直訳されたもので呼ばれる。
公式ルールではないので、多少の違いはあるがだいたい下記のようなものだ。

・シールド戦(パックは自由)である。(トーナメントパックやスターターを使わないならば基本地形を支給)
・デッキ構築時間は0である。(パックから出たカード全てがデッキである。)
・パックから出たカードを確認してはいけない。(サーチ系カードを除く)
・サーチ系カードはなるべく自分のライブラリーを全て見ないように心がける。
・勝者は敗者のライブラリーのカードを全て奪い取り、奪い取ったカードを見ないで自分のデッキに全て投入する。
・勝者が最後の一人になるまでそれを行う。
・主にお酒を飲みながらマジックをしなければならない。(推奨)
ここまでならお酒の上でのパーティゲームで済む。

このゲームルールが鉄人と呼ばれる所以ともなる恐ろしきルールが1つ。
それは、

勝敗が決した時点で、
敗者のライブラリ以外の全ての領域のカード(場・手札・待機中、墓地など)は、
徹底的に破り捨てるか、ビールをかけるか、トマトケチャップをかけるか、
火をつけるか、ハサミで切り刻むか、トイレでおしりをふく事に使うか、
ヤギに食べさせなければならない。


という鉄の掟を守らなければいけないという事である。
最初のルール説明の
「敗者のライブラリーを奪い取り、自分のデッキに入れる。」
という不思議な記述はこれが理由である。
(敗者のライブラリー以外のカードは全て色々な意味でゲームから取り除かれてしまうため。)

筆者が知る限り、これをBetaでやったキチガ…いや、剛の者がいるらしい。
その時、悪夢のような出来事だが《Black Lotus》をプレイしたプレイヤーが敗北した。
ギャラリーの、
「やめろーーーー!!!」
「俺が買う!!やめてくれ!」
「そのカードだけは破るな!」
という叫びの中、
勝者は、にたぁ~と笑いながら《Black Lotus》をビリビリに破いたという…。
こんなおっそろしいゲームの生け贄になってしまったカードもあるのだ。

人間の破壊願望もこういう所に来ると最早、狂気の沙汰である。
とはいえ、Betaで!とは言わなくとも、
このルールを聞いたらやりたくなってしまう人もいるだろう。
悪いことは言わない。お薦めはしない。

話がそれてしまったが、
こんな遊び方をした人もいる事、
そして海外は日本に比べてアバウトなカードの扱いをしている事を考えれば、
この世のAlpha、Beta、Unlimitedの各レアの枚数は20000以下になっている事がおわかりいただけただろうか。
まして、状態の良いカードはもうそんなに多く残っていないのだ。

想像に過ぎない数字ではあるが、
最初の数字を20000枚と仮定した場合、
総数は15000~17000枚程まで減り、
状態の良いものはもう3000枚以下になっているのではないかと思う。
Alpha+Betaの1種のレア枚数とUnlimitedの同カードのレア枚数の比率は、
だいたい1:2である。
(全てのカードが全く同じ発行枚数であるとは限らないので、
だいたいという表現を使っている。)
約20000枚だとしたら、
6500~7000:13000~14000程度だと考えればいいだろう。
こう考えてみると、Alpha、Beta、Unlimitedのカードはかなり貴重なカードなのだ。

プレイヤーはカードの状態を気にせず使い倒し、
コレクターは自分のコレクションを市場には流さない。
こうなってしまう事が多いため、
市場に出回るものは数が限られてくる。
やはりコレクターの道は非常に険しい。
だが、それがコレクターの楽しみでもある。
希少価値のあるものを多く集めてこそ楽しみも増える。
この貴重なカードたちにはまだまだ手が出ない!という人も多い。
しかし、それでも自分はこの古いカードたちを推したい。
初期の頃にある味というものは、
他では味わえないものである。
発行枚数の1/20000を手にしてみてはいかがだろう。

ではまた。



記事作成日:2010/12/17