Cardshop Serraが出来てからその4 -後編-
「Cardshop Serraが出来てから。」
Cardshop Serraが出来るまでではなく、
Cardshop Serraが出来てからの、
テキトーな時代のテキトーなお話をテキトーに語る。
ときにはリクエストにお応えしつつ、
ときには自分で思い出したお話を。
杏ちゃん地獄変事件(後編)
杏ちゃんのお電話から少し経過し、年の瀬を迎えた頃。
Cardshop Serraでは福袋を作らなければいけない時期だ。
やっぱり一人でお店で作業をしていた真夜中。
店主の携帯が鳴り、画面の表示には杏ちゃんの文字。
「もしもしー。」
「せら、今相談いい?」
「うん。」
「彼氏がね、働いてくれないの。」
「先日のお父さんのところに連れていく件は実行したんだよね?」
「うん。それで彼氏は就職情報誌を見てはいるんだけど、
履歴書を買いたりとか面接に行ったりはしないの。」
形だけ、というやつか。
「で、それだけが問題なの?」
「ううん。
わたしね、彼のためにiPadも買ったの。
でもね、彼は買って三日目くらいに失くしちゃったって。
iPad失くされるし、
働いてくれないし、
生活費はないし、
どうしたらいいのかわからないの。」
ほう。
何故そんなに貢ぐんだか。
年齢サバ読んだ後ろめたさなのか、
それとも彼の「外国にある資産」とやらに期待しているのか。
何にしても状況は芳しくない。
そしてさらに続ける杏ちゃん。
「それとね、彼が避妊してくれないの。」
「一応聞くけど、まだ籍は入れてない?」
「うん、入れてない。」
「子供どうする?って話はしたの?」
「してない。」
「出来たらどうする?」
「生活安定してないし困る。」
「籍入れるの?」
「うーん・・・。」
不安要素しかないな。
こんな話をしつつ、
身体は大人!心は子供!な名探偵セランはある質問をする。
「杏ちゃん、今、レオパレスの部屋にいるんだよね?」
「うん。」
「iPadの取扱説明書と箱と充電器、ある?」
「ない。」
「どうして?」
「わからない。」
名探偵風に言うと、
「あれれ~おかしいよ~!!
iPadを失くしちゃったはずなのに、
どうして普段持ち歩かないはずの取扱説明書や箱まで消えているんだろう~?」
である。
間違いない。
売ったわ。
「杏ちゃん、多分な、そのiPad間違いなく売られたと思うよ。」
「え?」
「一応説明しとくけど、
取扱説明書や箱まで持ち歩いて失くすって不自然じゃない?
iPadって普段そんなもん全部持ち歩かないだろ?
部屋からそれら付属品が全て綺麗さっぱり失くなっているんだ。
怪しむべきだよ。」
「本当に・・・
本当にそうなの・・・?」
「それしか考えられないと思うんだけどなぁ。」
「そんな・・・。」
「先日のTポイントアイス、
このiPadの消滅、
そして普通は年収一千万円の人はレオパレスに住まない。
総合的に考えて、
彼氏さんただのニート。」
「本当にそう思う?」
「ちょっといいか?」
「うん。」
「俺、カードショップの店主。
年収一千万円無いけど、レオパレスに住む選択はしないぞ。
一人暮らしならともかく、
二人でってのは俺は考えられん。
それと同様に、
俺、Tポイントカードは持っているが、
そもそもポイントを使った事すらない。
ポイントが残っているからアイスを買うっていう思考は普通ない。
多分その彼氏、一般人よりお金無いぞ。
いや、一般人がTポイントでアイス買うかもしんないけど、
年収一千万円のお金持ちさんはTポイントとかあんま気にしてないと思う。」
「言われてみれば・・・。」
言われてみればじゃないんだけどな。
アンタ、その人と一緒に生活してんだから、
もっといくらでも気づけるだろ、こんなもの。
と言いたいのをぐっと堪える。
「せら、私どうしたら?」
「困ったな。年末じゃなきゃ千葉まで行ってもいいんだけど、
仕事上そうも行かない。」
「何か方法ない?」
「まず、杏ちゃんの意志確認。
彼氏と結婚したい?それとも別れたい?」
「うーん・・・出来れば結婚したかったんだけど、
なんだか無理そうな気がしてきた。
働かないんだったら無理。」
「現状、働きそうに見える?」
「ううん、働かなそう。」
「あと、多分お金無い人なのは確定だよ。」
「そうだね・・・別れる方がいいと思う。
でも出て行ってくれるかどうかも・・・。」
「それだけなら方法がある。」
「あるの?」
「何よりも杏ちゃんの安全が大切だからな。
それも加味した方法がある。」
「それは?」
「前回と半分まで同じ方法。
まず二人で杏ちゃんのお父さんのところに行こう。
で、お父さんに事情を話して、
お父さんの口から言ってもらって、
そのまま彼に出て行ってもらえばいいんだ。
下手に二人で話して暴力沙汰になったり、
家から出て行ってもらえないというトラブルを避けるには、
第三者がいたほうが良い。
杏ちゃんの実家で数人にいる中で、
激昂したり、出て行かないって態度は相当難しいでしょ?」
「確かにそうだね。わかった。」
「問題は彼の私物が部屋にどのくらいあるかだが。」
「ほとんどないよ。
彼、同棲時にほとんど手ぶらで来たから。」
「それなら彼の実家住所聞いて送り付けるで十分なんだけどさ、
なんでその時点でお金の無い男だと気づかなかったんだ?」
「ごめん、全然考えてなかった。」
と、こんな会話をした後、
杏ちゃんはこの提案を実行したのは年が明けてからだった。
年が明けて1月2日。
その彼氏さんは千葉の寒空の下に放り出されたのだった。
しかし、
杏ちゃんのお父さんはとても良い人なのか、
最後にその彼氏に一万円だけ渡したのだそうだ。
・娘を騙した。(年齢サバ読んだからお互い様か?)
・レオパレスの契約と引っ越しに伴う出費
・杏ちゃんが払った生活費
色々考えると1万円を渡せるなんて、
なんて心の広いお父さん。
彼氏のほうはどうなったかと言うと、
その1万円以外のお金は持っていない状態だったはずなのだが、
放り出された後は即座にネカフェに入ってTwitterをしていたのだそうだ。
計画性がまるで無いが、ある意味でたくましい。
1万円でネカフェに入ったら、
どうやって彼は関西まで帰るんだろう。
それともその算段がTwitter経由か他のSNS経由であるからネカフェに入ったのか。
何にしても店主が知っている情報はそこまで。
その後の彼の動向は知らない。
杏ちゃんは・・・というと、
そこからも年齢をサバを読んだままネットで婚活?しているようだ。
40歳の身で「23歳保育士」を名乗るのはかなり厳しいと思うのだが。
年齢の40%をサバ読むって無茶じゃないか?
(40歳×40%=16、
40-16=24なので実際はもっと。)
店主は、
「いつかまた杏ちゃんはこういうトラブルをやりそうな気がする。」
と思っている。
次こそ本当に良い人が現れると良いのだが、
年齢を偽っている間は難しそうな気もする。
ではまた。
記事作成日:2023/03/10