ヴァンガードとハイランダー
記事作成日:2020/06/19 執筆:加藤英宝
この記事は2020年6月19日にnoteで掲載された記事をこらむに移行したものです。
ツイッター質問箱でこのような質問をいただいた。
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ヴァンガードとハイランダーはどうして定着しなかったのでしょうか?
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まずこのヴァンガードとハイランダーの説明から。
●ヴァンガード(Vanguard)
ヴァンガードという手札補正とライフ補正も持つ定形外のマジックのストーリー上のキャラクターカード。
2人対戦でも多人数戦でもよい。
プレイヤーはデッキを用意し、
各々にヴァンガードカードを用意し、
ゲーム開始時にヴァンガードカードを公開する。
そのカードに書いてある手札とライフの補正を受ける。
ヴァンガードはパーマネントではないので、
いかなる方法でも破壊、追放出来ない。
また、手札補正とライフ補正の他、
常在型能力や起動型能力を持つカードも存在する。
●ハイランダー(Highlander)
「基本土地カード以外の全てのカードは、
1つのデッキに1枚までしか入れることができない。」
という構築のルール。
サイドボードを用意する場合は、
メインも含めて全てのカードが1枚しか採用出来ない。
この2つに対しての見解で、
共通して言えると思っている事があって、
2つとも、
「出すのが早すぎた。」
ではないかと思っている。
ヴァンガード(Vanguard)
まずヴァンガードから。
前述の能力だけ見るとEDHのジェネラルみたいなルール。
ジェネラルと違うのは、
「置いてあるだけで勝手に能力を発揮する。」
という、RPGでいうパッシブスキルだ。
プレイヤーに付けるパッシブスキルがヴァンガード、
プレイヤーの相棒や使い魔といった立ち位置がジェネラル、
という言い方のほうがベストだろうか。
最近ルール的に相棒が出てしまったが。
出るのが早すぎたというのは、
単純にプレイヤーが多様性ある遊び方を受け入れられない時期に、
WotC社が焦って出してしまったと言えばわかりやすいだろうか。
ヴァンガードが作られた頃、
MTG黎明期はまだインターネットも普及していない時代。
その頃では情報も多く無く、
プレイヤーは遊び方と言えばスタンダードがメイン。
それ以外でも基本的にはまず競技性が重視されていた。
今も競技性は重視されているし、
スタンダードのプレイヤーも多いのは変わらないけれども、
プレイヤーの層はかなり変化した。
プレイヤーの層は確実に平均年齢が上がった。
この平均年齢がプレイヤーの多様性を変化させた要因の1つ。
店主が時折話題に出す、
「学生時にはお金が無かった。
MTGで好きなカードを手に入れる事が出来なかった。
今はお金はある。今度は時間が無くなった。」
という人が増えた。
そうすると、
変化の著しいスタンダードについていけない大人が増える。
という話。
当たり前と言えば当たり前だ。
一般的な社会人は週5日働き、2日休む。
一ヶ月での休みは10日弱といったところ。
中には結婚して家庭を持つ人もいる。
この生活環境で大半の時間をMTGに費やせる人はまずいない。
週に何度もMTGをして、
競技スタンダードのデッキの変化についていくのは、
大変だと思う方は多いはず。
そうなると、人は考えが変わってくる。
・スタンダードの変化にはついていけないけど、
とりあえずMTGで遊べるなら何でもいい!
・もうだめ、コレクションに突っ走る!
気が向いたら適当に遊ぶ。
・古いカード買ってレガシーやろう。
・いや、もうお金あるしヴィンテージとレガシーやろう。
・競技追っかけるよりカジュアルに遊びたい。
・いつでも資産差関係無しのリミテッドが楽!
・たまにGPみたいな大きなトーナメントに行くけど、
それ以外はまったりで行こう。
軽く挙げてみてもこのくらい選択肢が出る。
こういったプレイヤーの多様性が昔には無かった。
ヴァンガードが受け入れられなかったのは、
この多様性の足り無さと、
単純なプレイヤーの母体数だったと思う。
簡単に言えばプレイヤーがまだ育ち切らない時に、
コンテンツだけが先走ってしまったという感じだ。
今くらいの時期にカジュアルに遊ぶやり方として、
もっとうまくプロデュース出来ていれば、
もしかしたらの可能性はあった。
ハイランダー(Highlander)
次にハイランダー。
こちらは上記のプレイヤーの多様性と母体数の点はヴァンガードと同じ。
それに加えてもう1つ。
カードの多様性だ。
昔のハイランダーは根本的にカードプールが少ない。
ハイランダーデッキを組むと、
「弱いカード突っ込まないとデッキにならない。」
となる。
それはそれで面白いと言えば面白いのだが、
やっぱりプレイヤーというものは、
持っているカードからわざわざ弱いものを選びたくない。
上位互換があるなら上位互換を使うのが普通だ。
昔はカードの種類が足りなくて、
単純にハイランダーを組んでも楽しくなかった。
カードの種類が少ないという事は、
デッキを作ってもみんな似たりよったりになってしまう。
そこに加えて競技、競技、競技という感じの世界では、
わざわざハイランダーデッキを常に持つ人なんて少なかったはず。
相当に多くのプレイヤーを見てきたが、
常に60枚のハイランダーデッキを持っているという人はいなかった。
時々ネタデッキとして持つ人がいる程度で、
そういう人でも継続的にデッキを持ち続けるわけではなかった。
当たり前だけれども、
こんな状況ではハイランダー大会を開催しても人は集まる訳がなく、
自然と廃れていく遊び方になっていった。
エルダードラゴンハイランダー(EDH)
ただ、随分な時間がかかったが、
ハイランダーには光が差した。
説明不要のエルダードラゴンハイランダー、EDHだ。
公式は強引なまでに「統率者戦」と言うけれども、
プレイヤー間ではEDHの名でしっかりと根付いている。
個人的にもハイランダーという単語が残されているEDHの呼称が好きだ。
ルールもしっかりハイランダーのままだ。
このEDHも、受け入れられた理由は、
プレイヤーの価値観の多様性とカードの多様性だった。
長くMTGをやっている人なら誰でもわかると思う。
MTGは年間で1000種類くらいは新しいカードが出る。
けれども、そんな種類が出ながらも、
スタンダードで活躍出来るカードは1割くらいだろう。
新しく出るカードの半分以上は、
「ああ、うん、リミテッドなら使うね・・・。」
「リミテッドですら使わないね・・・。」
「せめてコストが1少なければね・・・。」
「弱い事は書いてないよね。使わないけど。」
「指定コストきついけど強いよね。」
というカード達で埋まる。
なんとも可哀想なカード達の多いこと、多いこと。
せっかく手に入れたカード達のかなりの数が、
いつまでもいつまでもアルバムやストレージの中で眠るだけだ。
さらに、
スタンダード落ちしたカードも大半は同様の扱いを受ける。
レガシー、ヴィンテージのような世界では、
スタンダードで活躍したカードで、
この2つの世界でも活躍可能なカードは相当限られる。
そんな事が何年も何年も経った時、
EDHという遊び方を考えだした人がいた。
これが想像以上に画期的で、
かなりの人が参入した。
カジュアルな遊び方でここまで浸透した遊び方は、
今までに一度も無かった。
その浸透した理由の1つは眠っていたカード達が使える事だったはず。
一度はスタンダードで輝いたがスタンダード落ちしたカード、
一度も輝いた事も無かったカード、
特定のカードとのコンボが成立するようになったカード、
そういったカード達に使える場が設けられた事は大きかった。
そしてEDHの名が冠する通り、
「普通は使われなかったエルダードラゴン(画像にあるドラゴン)が、
こういう形で使う事が出来る場を与えられた。」
という事も重要。
だからこそ「エルダードラゴンハイランダー」なので、
自分はEDHの呼称が好き。
さらに、
どんなカードも1枚あればOKという事からも、
MTG復帰組にとっては戻りやすい環境でもあり、
MTG初心者組にとっては入りやすい環境でもあった。
そして何よりも大きかった事は、
MTGが20年以上続いた事で、
大昔と違ってカードの種類が増えて選択肢が増えて、
全てのカードが1枚ずつでも強いデッキが構築可能になった事。
EDHは確実にMTGの世界を大きく変えた。
プレイヤーの数もかなり安定してきたうえに、
大きなトーナメントでもサイドイベントが開かれる。
ハイランダーはヴァンガードと違って、
少し違う形になって生き残る事が出来た。
ハイランダーのデッキ
追記で1つ。
ハイランダーデッキをEDHではなく、
60枚のデッキで十分に通用してしまう世界が1つだけある。
言うまでもない、ヴィンテージだ。
《意志の力/Force of Will》だけ4枚にしたい気持ちはあるが、
やろうと思えば60枚完全ハイランダーのデッキは構築可能だ。
ついでなので1例でデッキを作ってみよう。
-クリーチャー5枚-
1《戦慄衆の秘儀術師/Dreadhorde Arcanist》
1《アゾリウスの造反者、ラヴィニア/Lavinia, Azorius Renegade》
1《僧院の導師/Monastery Mentor》
1《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》
1《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn’s Prodigy》
-インスタント14枚-
1《Ancestral Recall》
1《稲妻/Lightning Bolt》
1《渦まく知識/Brainstorm》
1《狼狽の嵐/Flusterstorm》
1《呪文貫き/Spell Pierce》
1《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
1《思考停止/Brain Freeze》
1《精神的つまづき/Mental Misstep》
1《精神壊しの罠/Mindbreak Trap》
1《誤った指図/Misdirection》
1《否定の力/Force of Negation》
1《意志の力/Force of Will》
1《神秘の教示者/Mystical Tutor》
1《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
-ソーサリー8枚-
1《ヨーグモスの意志/Yawgmoth’s Will》
1《悪魔の教示者/Demonic Tutor》
1《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》
1《商人の巻物/Merchant Scroll》
1《思案/Ponder》
1《定業/Preordain》
1《Time Walk》
1《修繕/Tinker》
-エンチャント1枚-
1《死の国からの脱出/Underworld Breach》
-アーティファクト12枚-
1《Black Lotus》
1《ボーラスの城塞/Bolas’s Citadel》
1《ライオンの瞳のダイアモンド/Lion’s Eye Diamond》
1《水蓮の花びら/Lotus Petal》
1《Mox Emerald》
1《Mox Jet》
1《Mox Pearl》
1《Mox Ruby》
1《Mox Sapphire》
1《太陽の指輪/Sol Ring》
1《魔力の墓所/Mana Crypt》
1《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》
-プレインズウォーカー4枚-
1《ダク・フェイデン/Dack Fayden》
1《覆いを割く者、ナーセット/Narset, Parter of Veils》
1《時を解す者、テフェリー/Teferi, Time Raveler》
1《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》
-土地16枚-
4《島/Island》
1《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》
1《汚染された三角州/Polluted Delta》
1《霧深い雨林/Misty Rainforest》
1《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
1《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
1《Tundra》
1《Underground Sea》
1《Volcanic Island》
1《カラカス/Karakas》
1《真鍮の都/City of Brass》
1《マナの合流点/Mana Confluence》
1《虹色の眺望/Prismatic Vista》
-サイドボード15枚-
1《呪文追い、ルーツリー/Lutri, the Spellchaser》(相棒枠)
1《流刑への道/Path to Exile》
1《荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus》
1《魂標ランタン/Soul-Guide Lantern》
1《貪欲な罠/Ravenous Trap》
1《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
1《外科的摘出/Surgical Extraction》
1《鋼の妨害/Steel Sabotage》
1《苦々しい試練/Bitter Ordeal》
1《墓掘りの檻/Grafdigger’s Cage》
1《赤霊破/Red Elemental Blast》
1《紅蓮破/Pyroblast》
1《力ずく/By Force》
1《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》
1《The Tabernacle at Pendrell Vale》
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フェッチランドとデュアルランドを複数採用出来ない点が少しだけ苦しい。
《不毛の大地/Wasteland》で一気に色事故が起きる事があるので、
緻密なプレイングが要求される事が難点。
反面、完全なハイランダーなので、
相棒カードを採用出来る事がメリット。
相棒カードはこんなカード。
《呪文追い、ルーツリー/Lutri, the Spellchaser》
コスト:1(青/赤)(青/赤)
伝説のクリーチャー エレメンタル(Elemental) カワウソ(Otter)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っている土地でない各カードが、
それぞれ異なる名前を持っていること。
(このカードがあなたの選んだ相棒であるなら、あなたは1回のみゲームの外部からこれを唱えてもよい。)
瞬速
呪文追い、ルーツリーが戦場に出たとき、あなたがこれを唱えていた場合、
あなたがコントロールしていてインスタントかソーサリーである呪文1つを対象とし、それをコピーする。
あなたはそのコピーの新しい対象を選んでもよい。
3/2
レア
まさにハイランダーのためのカード。
ただし2020年4月2日、このカードの情報がリークされた途端に、
EDHで禁止をする旨が発表された。
この4月2日はまだイコリアが発売されてもいないというのに、
禁止を発表されるという前代未聞の措置だった。
(正式な禁止発表は2020年4月20日。)
さらに、これを執筆している間に、
相棒ルールが変化してしまった。
上記の相棒ルール部分が、
「ゲームを開始する前に、
ゲームの外部からあなたが所有していて、
あなたの開始時のデッキが、
条件を満たしている相棒能力を持つカード1枚を公開してもよい。
そうしたなら、各ゲーム中に1度だけ、
あなたはソーサリーを唱えられるときに(3)を支払うことで、
ゲームの外部からあなたの相棒をあなたの手札に加えることができる。
これは特別な処理であり、起動型能力ではない。」
このルールに変化。
全く困ったものだ。
それでもデッキは一応機能するし、
《呪文追い、ルーツリー》自体はハイランダーのための存在なので、
それも含めてデッキはこのままに。
あと《呪文追い、ルーツリー》の条件は、
「あなたの開始時のデッキに入っている土地でない各カードが、
それぞれ異なる名前を持っていること。」
なので、デュアルランドやフェッチランドを増やす分には問題無い。
最後に
というわけで、
ヴァンガードもハイランダーも
「出るのが早すぎた。」
というちょっと悲しい理由で流行らなかったのではないかと。
今のように多様性に富んだ状態であれば受け入れられたものだったと思う。
とはいえ、
ハイランダーだけでも光が差したのは嬉しい。
EDHの世界では、絵はかっこいいし、能力も弱くないけれども、
トーナメントカードにはなれなかった天使やドラゴン、
《神の怒り/Wrath of God》系でコストが5以上なせいで活躍の場が無かった大量破壊呪文、
60枚デッキでは外されてしまうエルフやゴブリン達、
全くデッキに入れようとも思われない伝説のクリーチャー達、
こういった色々なカード達に活躍の場を与えてくれた。
EDHはMTG史上でも最も素晴らしい遊び方だと言い切っても良い。
MTGプレイヤーは皆、個性ある魔法使いだ。
「魔法使いならば、
自分だけの魔道書(デッキ)で戦ってこそ魔法使い。
誰もが同じ魔道書では面白くない。
そして一見弱いと思われる魔法も使う者次第だ。」
そんな世界観の雰囲気を出してくれたEDHは、
魔法使いのための遊び方だと思っている。
EDHは思い思いに自分だけの魔法を集めて勝負する、
Magic(魔法)
Gathering(集まる)
という事をふまえても、
MTGらしさにあふれている。
店主がEDHを好きな理由の1つがこれだ。
ファンタジーの世界を体現してくれている感じが素晴らしい。
ヴァンガードは・・・いつか光が差す日に期待してみよう。
ではまた。