MTGのための未来への歩み:託された想いとカード
記事作成日:2021/08/29 執筆:加藤英宝
《Time Walk》というカードは店主にとってとても思い入れのあるカード。
今回はそれに関する1つのお話。
2021年の4月、
ある方から連絡をいただいた。
「残っているカードを手放したい。」
と。
以前に一度結構な量の取引をした方だった。
この方は店主同様に《Time Walk》のイラストレーター、Amy Weberさんのファン。
イニシャルでSさんとここではお呼びしよう。
以前の取引で完全にコレクションは手放されていると思っていたが、
お気に入りの品々と一部のカードが残っていたとのこと。
Sさん曰く「多分これが残っている最後のコレクション」とのこと。
「もうそんなに大した量じゃない」と言っていながら結構なものが残っていた。
アルバムをチェックしていたらとんでもない品が出てきた。
《Time Walk》
《Phelddagrif》
《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》春夏秋冬
《Candelabra of Tawnos》
《Blacker Lotus》
これら全てアーティストプルーフ。
・・・査定価格をいくらにすればいいのかサッパリわからない。
アーティストプルーフという品は、
一言でいえば
原画イラストレーターにのみ配布されている貴重品。
基本情報としては、
1:おおむね限定50枚しか用意されない。
(多少の例外があるらしい。)
2:裏側は真っ白でMTGのロゴは無い。
(アーティストにイラストやサインを描いてもらう事が多い。)
3:WotC社がアーティストにプルーフの販売を許可している品。
(GPなどの大会で購入する機会がある。)
4:表面には基本的にサインが入っている。
というMTGのカードで、
とても特殊なコレクターズ・アイテム。
特定のアーティストのファン、
または特定のカードが好きな人の最後に行き着く、
究極のコレクションアイテムとも言われる。
プルーフとはこんな存在なので、
一般流通はとても少なく、
大半のカードショップでも取り扱いはない。
理由は簡単で、
・買取、販売金額がつけにくい。
・商品登録や入手が困難。
といった理由。
もちろんCardshop Serraも例外ではない。
さあ、どうしよう。
トーナメントカードでも無ければ、
有名アーティストでも無いというカードなら、
気軽に値段をつけられると言えなくもないが、
《Time Walk》
《Phelddagrif》
《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》春夏秋冬
《Candelabra of Tawnos》
《Blacker Lotus》
こんな有名&貴重カードだらけ、
しかもそのうち1つはパワー9の一角、《Time Walk》だ。
ミシュラの春夏秋冬も相当に貴重だ。
だいたいアンティキティのカードのアーティストプルーフなんて、
この長いMTG歴の中でも数える程しか見たことがない。
店主「これどうやって価格を付けましょう。
参考価格が何も無い品なのですが。」
Sさん「そうだね。このカード達は君に寄付する。」
店主「え?!」
Sさん「君はいつか博物館を作りたいと思っているのだろう?
実はね、私はこの生涯の中でいくつかの博物館や美術館を監修してきたんだ。」
店主「え?!」
Sさん「だから、今後の君の活躍に期待しこれを託し、
そして私の持つ知識も少し力になれれば嬉しい。」
店主「本当にいいんでしょうか?」
Sさん「ああ、他のところにカードが行ってしまうより、
君に持っていてもらったほうがいい。」
店主「ありがとうございます!!」
こんなやりとりがあり、
予想外にカードを託してもらった。
Sさん「それと私はもう長くないんだ。」
店主「それは・・・どういう・・・?」
Sさん「癌だ。ステージ4だよ。」
癌のステージとは、
ステージ0、1、2、3、4とあり、
4が最終段階。
ステージ4は5年以内の生存率は10%を切る。
完治、または5年以上の生存例も無くは無いが、
統計としてその数はとても少ない。
Sさん「つまり1年後もわからない状態だ。
だから身の回りの片付けを始めたという一面もある。」
店主「そうだったんですね・・・。
現状お身体の具合はどうなんでしょうか。」
Sさん「1箇所転移した場所もある。
それを考えても長いとは言えないだろうね。」
店主「今、お酒を飲まれていますが、
お医者様から止められたりしていないんでしょうか?」
(この話をしていた際にSさんのお薦めの料理店でお話をしていた。)
Sさん「たぶんね、適量ならいいんだろうよ。
それとその程度ではもう大して変わらない状況まで来てるんだろう。」
店主「それほどの状況だったとは知りませんでした。」
Sさん「ま、暗くなってもしょうがないしさ、
前向きに博物館の話をしようじゃないか。
これで本当に綺麗さっぱり、
手元のカードは多分もう無いと思う。
最後のカードを君に託せて結構ホッとしてるよ。」
余談になるけれども、
この日、Sさんに連れられて行った料理店が、
結構な高級店だった事を後で知って驚いた。
奢ってもらった上に、
お任せメニューだったのでいくらだったかもわからない。
全然買取の仕事らしくない日だった。
お会いして食事を一緒にしてカードを託されただけに等しい。
(買取するカードと託されたカードは別々にあったが。)
それにしても不思議な縁だ。
これで《Time Walk》のアーティストプルーフを二人の人から託された。
ミューさんとSさん。
世界中に50枚しかないと言われる品を二人が持っていて、
その両方を託されるとは思わなかった。
このSさんとは取引後も何度かのやり取りをしていた。
4月の取引時から3ヶ月が経過したのち、
LINEが既読にならなかった。
まさか、と思いながら二週間待った。
返信も無く、既読も無かった。
半分は答えが出ていると思いながら電話をかけた。
つながらない。
電話に出ないのではなく、
「この電話番号は現在使われておりません。」
だった。
半分は9割になってしまった。
それでも確認しようと思い、
Sさんの職場の1つに電話をかけた。
(この人は肩書が3つ程ある方だったので。)
電話に出たのはSさんの奥さんだった。
こちらが名前とSさんとの関係を話したら、
「ああ、カードの方ですね。
主人は亡くなりました。」
と教えてくれた。
わかっていた。
わかっていたけれども、
違う言葉が出てきてほしいと願っていた。
「主人は2年の闘病生活の中、
仕事ばかりの時間でした。
亡くなる2日前も仕事をしていましたよ。」
精力的に仕事をされている事は知っていたものの、
2年の闘病生活であった事は初耳だった。
また、
「貴方の事も聞いています。
4月にろくさん亭で食事をした方ですよね。
主人がとても楽しそうに言っていました。
『カードで博物館を作ろうと頑張っている人だ。』
と。あの日の主人はいつもより嬉しそうでした。」
とも言われた。
Sさんが亡くなった事と、
こんな風に思ってもらえていた事とで、
うまく言葉が出てこなかった。
いくつもの仕事を兼ねていたSさん。
その中でMTGは仕事とは当然無関係のものだった。
勝手な想像も入ってしまうけれども、
Sさんは本当に自分の残された時間が少ない事を知っていたのだと思う。
ここには詳しく書かないが、
亡くなられるまでのSさんの行動がそれを物語っていた。
その上で最後まで残していたMTGのコレクションは、
本当にSさんが好きだったカードだけが詰まった2冊のアルバムだった。
Sさんらしいコレクションだった。
そのコレクションを
「俺が死んだらこのカードどうなる?」
という事を考えた際に、
託す場所として自分を選んでくれたのだろう。
Sさんは享年60歳。
日本人の平均寿命から見ても早すぎる死だった。
これからも沢山の事を教えてもらう矢先だっただけに、
言葉にならないものがあった。
Sさんのこの件を受けて自分は決断した。
カード博物館を作ろうと。
まだ何もわからないし、
お金も人もそれ以外のものも足りないものだらけだ。
けれども、
こうして自分に最後を託してくれる人がいた。
とても貴重な品である事よりも、
心を託してくれた事が大切だ。
「俺のコレクションを託せる奴だ。」
と思ってもらえた事が光栄だ。
そんな方の気持ちに応えたいと思った。
MTGの著作権はもちろんWizards of the Coast社にあるため、
カード博物館実現のためにはWizards of the Coast社との
交渉が必要になるので実現にはいろいろなハードルがあると思うが
どうにか形にしたいと思っている。
これを読んでくれた人達へ。
自分は今から真剣にカード博物館を作るために動きたい。
そのために一緒にやろうという人を募集したい。
ただ共感してくれるだけでもいい。
博物館を作ろうと思った理由については
下記のサイトでもお話をしている。
もし興味のある人はそちらも見てほしい。
一緒にやろうという人、
共感してくれる人、
良かったら自分の気持ちを書いて連絡をしてくれたら嬉しい。
連絡手段は、
メール、Twitter、HPの問い合わせ、facebookなど、
使える手段のどれでも構わないし、
直接会ってという方法ももちろん歓迎。
コロナ禍ではあるものの、
状況次第ではこちらから会いに行ってお話をしたい。
MTGを100年後の未来に届けよう。
ではまた。


