マスク
記事作成日:2020/04/26 執筆:加藤英宝
今回のお題は《Illusionary Mask》というカード。
アルファから存在し、
Unlimited版までしか刷られていない希少なカードだ。
そして能力は唯一無二。
あまりにその能力が面白く、
これを使いたいと思って購入したほど店主大好きカード。
《Illusionary Mask》
コスト:2
アーティファクト
(X):あなたはあなたの手札にある、あなたが(X)で支払ったマナのすべてかその一部で、
そのマナ・コストを支払うことができるクリーチャー・カードを選んでもよい。
そうした場合、あなたはそのカードを裏向きの2/2のクリーチャー呪文として、
そのマナ・コスト支払うことなく唱えてもよい。
その呪文が解決することでなったそのクリーチャーは、
それが表向きになっていない状態でそれがダメージを割り振ったり、ダメージを与えたり、
ダメージを与えられたり、タップ状態になる場合、
代わりにそれを表向きにしてダメージを割り振ったり、
ダメージを与えたり、ダメージを与えられたり、タップ状態になる。
この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
レア
一見何を書いてあるのかさっぱりわからないカード。
MTGのカードの中で、
「いくら読んでもオリジナルのテキスト部分が、
一切役に立たないカードランキング」
でおそらく堂々の一位だ。
カードのテキスト欄に書いてある効果と、
現在のルールにおけるこのカードの効果が全く違うのだ。
このカードの印刷時のテキストは以下の通り。
《Illusionary Mask》
コスト:2
ポリィ・アーティファクト
(X):あなたは対戦相手がそれが何か分からないように
裏向きで召喚呪文(アーティファクトでないクリーチャー呪文)を唱えてもよい。
Xは0を含む任意のマナの量にしてもよい。
クリーチャーの実際の唱えるために必要なコスト(casting cost)を隠して出す。
そのコストは依然と支払わなければいけない。
裏向きのクリーチャーにダメージが与えられる、
もしくはダメージを与える、もしくはタップされると同時に、
あなたはそれを表向きにしなければいけない。
ポリィ・アーティファクトは、
1ターンで何度も起動できる能力を持つアーティファクトのこと。
MTGの最初期にはタップシンボルがなく、
その後タップシンボルが登場したこととルールの改正により、
ポリィ・アーティファクトは「アーティファクト」に統一されている。
この当時のルールでは、
クリーチャーをそのクリーチャーのコスト以上のマナを支払うことで、
他プレイヤーにクリーチャーの情報を隠した状態で唱えることができる。
そのクリーチャーは裏向きで戦場に出る。
そのクリーチャーはダメージ計算やタップの動作を行う際に表向きになる。
裏向きの状態でも、そのクリーチャーは表向きの状態と同じ特性を持つ。
この頃のルールでは、
「場に出たら○○する。」
という能力は誘発していた。
誘発していたから厄介だった。
例えば、《大クラゲ/Man-o’-War》を出して、
対象のクリーチャーをオーナーの手札に戻す場合、
この《Illusionary Mask》で裏向きで出すと、
「そのクリーチャーを対象にします。手札に戻ってください。」
「どうして?」
「どうしてもです。」
となってしまう。
この場合、第三者(ジャッジ)が判断をする事になっていた。
その後、
2007年4月のオラクル更新で、
《Illusionary Mask》は以下のテキストに変更されている。
《Illusionary Mask》
コスト:2
アーティファクト
(X):あなたは、あなたの手札にある点数で見たマナ・コストがX以下である
クリーチャー・カードを1枚、0/1のクリーチャーとして裏向きに戦場に出してもよい。
そのクリーチャーの上に仮面(mask)カウンターをX個置く。
この能力は、あなたがソーサリーをプレイできるときにのみ起動できる。
そのクリーチャーのコントローラーは、
そのクリーチャーを、自分がインスタントを唱えられるときならいつでも、
それからすべての仮面カウンターを取り除くことで表向きにしてもよい。
この効果は、そのクリーチャーが表向きになった場合終了する。
この時点で、「クリーチャー呪文を唱える」のではなく、
「クリーチャーを戦場に出す」に変更されている。
また、それに伴い、能力の起動がソーサリータイミングに定められている。
さらに、裏向きで出たクリーチャーは0/1のクリーチャーとして扱われる。
能力の起動に使用したコストは仮面カウンターで記憶し、
インスタントタイミングでいつでも表向きにできるようになった。
もうこの時点で完全に元のカードのテキストは役に立たない程の改正が行われた。
ところで、このルールの場合、
《魔力の導管/Power Conduit》で仮面カウンターを移動させたらどうなるのだろう。
ルール上は問題は無いだろうが、混乱を招く元になる事は間違いない。
そして、現在はこのこらむの冒頭の通りに変更されている。
このルールは約10年程前に変更されて以来、
大きく変更されずに現在に至る。
現在のテキストを以下に再び記載しておこう。
《Illusionary Mask》
コスト:2
アーティファクト
(X):あなたはあなたの手札にある、あなたが(X)で支払ったマナのすべてかその一部で、
そのマナ・コストを支払うことができるクリーチャー・カードを選んでもよい。
そうした場合、あなたはそのカードを裏向きの2/2のクリーチャー呪文として、そのマナ・コスト支払うことなく唱えてもよい。
その呪文が解決することでなったそのクリーチャーは、
それが表向きになっていない状態でそれがダメージを割り振ったり、ダメージを与えたり、
ダメージを与えられたり、タップ状態になる場合、
代わりにそれを表向きにしてダメージを割り振ったり、
ダメージを与えたり、ダメージを与えられたり、タップ状態になる。
この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
「クリーチャー呪文を唱える」という扱いに戻っているため、打消しが可能になっている。
インスタントタイミングで表向きにできる形から、
ダメージ計算やタップを行う際に表向きになる形に戻っている。
裏向きで出されるクリーチャーは、2/2という扱いに変更されている。
基本的なルールが変異クリーチャーと同じにするための変更なのだろう。
このカードで裏向きにしてプレイしたクリーチャーが変異を持っている場合、
変異をコストを支払って表向きにする事も可能。
その際に変異誘発型能力を持つ場合はその能力は誘発する。
ダメージ計算の際に強制的に表になるので、
2/2とはいえダメージを与える事はまず無い。
ただし、-1/-1カウンターが置かれる場合などは、
以前のように0/1の時との変化がある。
それから、《Illusionary Mask》が戦場を離れたとしても、
裏向きになっているクリーチャーを表向きにする事などは全て問題なく出来る。
このあたりのルールも変異と同じようにしてルールを整頓したかったのだろう。
そして変異クリーチャーと同じく、
ゲーム終了時に裏向きのままだった場合は、
ゲーム終了時に公開する事も義務付けられている。
最初期との違いとしては、以下の通り。
・裏向きの間は、表向きの特性を持たず、裏向きのパーマネントの特性に従う。
・アーティファクトクリーチャーに対しても能力を起動できるようになった。
こうしたルール変更により、
「マスクドレッド」
というコンボが成立するようになった。
1マナ12/12という驚異的な能力を持つ有名なクリーチャー、
《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》を、
このマスクでデメリット無しで出すという方法。
《Phyrexian Dreadnought/ファイレクシアン・ドレッドノート》
コスト:1
アーティファクト クリーチャー — ドレッドノート(Dreadnought)
トランプル
ファイレクシアン・ドレッドノートが戦場に出たとき、
パワーの合計が12以上になるように好きな数のクリーチャーを生け贄に捧げないかぎり、
これを生け贄に捧げる。
12/12
レア
ファイレクシアン・ドレッドノートは、
今月のKでおなじみのKが大好きな生物だ。
現在の《Illusionary Mask》のルールならば、
一切のデメリット無しでプレイ可能だ。
裏向きでプレイした際には
「戦場に出たとき」を誘発しないので、
同様にコストが低くて、パワータフネスが大きい、
《狩り立てられた恐怖/Hunted Horror》などもこれに適用される。
ちなみに、普通にプレイしようと《Illusionary Mask》で出そうとOKな生物もある。
《死の飢えのタイタン、クロクサ/Kroxa, Titan of Death’s Hunger》
というテーロス還魂記のカード。
《死の飢えのタイタン、クロクサ/Kroxa, Titan of Death’s Hunger》
コスト:黒赤
伝説のクリーチャー エルダー(Elder) 巨人(Giant)
死の飢えのタイタン、クロクサが戦場に出たとき、
これが脱出していないかぎり、これを生け贄に捧げる。
死の飢えのタイタン、クロクサが戦場に出るか攻撃するたび、
各対戦相手はそれぞれカード1枚を捨てる。
その後、これにより土地でないカードを捨てなかった各対戦相手はそれぞれ3点のライフを失う。
脱出 – (黒)(黒)(赤)(赤),あなたの墓地から他のカード5枚を追放する。
(あなたはあなたの墓地から、このカードをこれの脱出コストで唱えてもよい。)
6/6
神話レア
裏向きで出せば場に出た時のメリット部分は消えるが、
脱出で出ていない事での生け贄が発生しない。
普通にプレイした場合はその逆になる。
必要に応じて《Illusionary Mask》で使い分けが出来る珍しいカードだ。
こんな不思議なカードだが、
紆余曲折を経て、
トーナメントでも時々見られるくらいのカードに出世したという事だ。
実際のところは持っている人が少なくて、
滅多に見られないカードではあるが。
注意点としては、
1ターン目、《Mishra’s Workshop》セット、
タップ、アーティファクトプレイ専用の3マナから《Illusionary Mask》プレイ。
ここまでは問題無いが、
残ったアーティファクトプレイ専用1マナで
《Illusionary Mask》の能力で《ファイレクシアン・ドレッドノート》プレイは出来ない。
これは説明不要かもしれないが、
《Illusionary Mask》は起動でマナを要求されるため、
アーティファクトプレイ専用マナの《Mishra’s Workshop》のマナでは支払えない。
これが出来たらヴィンテージでも相当強くて面白いのだが、
ルール改正で可能になる事はないだろう。
なお、レガシーのルールが制定された2004年9月20日の時点では禁止、
その後、2010年7月1日に解禁されている。
そのため、ヴィンテージとレガシーの両方でマスクドレッドは構築可能だ。
レガシー制定前、レガシーに相当するレギュレーションがType1.5と呼ばれた頃、
「全員、《Illusionary Mask》を代用で構わないから、
デッキに4枚投入し、大会をやろう。」
と言って、非公式大会で8人で《Illusionary Mask》祭りをした事がある。
悔やまれる事はこの大会をお酒を飲みながらやらなかった事だけだ。
みんな大笑いしながら色々な生物を裏向きでプレイしていた。
よくもこんな思いつきに8人も集まったものだ。
正確には9人。
ルールが2007年よりも前だったので、
第三者が裏向きカードを確認しなければいけなかったため、
参加者8人+ジャッジ1人の9人が集まったのだった。
世界中でもこんなしょうもない思いつきを実行する人は滅多にいないだろう。
それから、今回このカードでこらむを書く事にはきっかけがあった。
このカード、決して安くはないカードなのだが、
先日とあるお客様から1枚いただいた。
カードの買取を申し込んできて、
「《Illusionary Mask》だけは英宝さんにプレゼントしてください。」
と言ってくださった。
この2020年春、
世界中がコロナウィルスで大騒ぎし、
世界中がマスク不足に陥っている中、
《Illusionary Mask》というマスクをプレゼント、
なんと素晴らしいセンスだろうと思った。
もちろんこのカードが大好きな事もあり、
機知に富んだプレゼントである事と合わせて非常に嬉しかった。
そして、この《Illusionary Mask》の絵を描いている人は、
これまた店主大好きカードの最高峰、
《Time Walk》を描いているAmy Weberさんだ。
プレゼントしてくださったお客様、
この場にて再度お礼申し上げます。
ありがとうございます!
このカード、言うまでもありませんが、
一生大切にいたします!
ではまた。