MTGの市場と流行について。
記事作成日:2018/08/23 執筆:加藤英宝
ツイッター質問箱でこのような質問をいただいた。
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「MTGの市場は少しずつ大きくなってる」
とウィザーズ社の偉い人がツイートしてましたが、
店主さんはそれを実感しますか?アメリカだけでしょうか?
ハースストーンやシャドウバース、遊戯王等に比べると、
日本ではあまりMTGが流行ってるようには感じないのですが、
流行っていない原因は何だと思いますか?
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市場と流行りは別物、と言えば1番早い回答。
プレイヤーは20~50歳の大人がメインになっており、
「一ヶ月にMTGに使うお金、全プレイヤーの合計額」
という言い方では市場は大きくなっている。
しかし、質問者の方の言う、
シャドウバース等の別ゲームに比べて流行っていないと感じるというものは、
全く間違っていない。
これは地方のショップの問題がとても大きい。
都心部で大会を開けばそれなりの数のトーナメントになるが、
地方では8人でのトーナメントすら開けないケースも多々ある。
都心部に人が増え、一部の地方は過疎化が進み、
結果、プレイヤーがトーナメントを楽しめない状態に陥っている事もある。
このあたりの違いにはお国柄というものも影響している。
これは自分がアメリカに行った事があるので経験をしているのだが、
アメリカはカードショップに遊びに行くために車で1時間など当たり前。
まさに「車は足」なのだ。
しかし日本のお国柄や都市の構成から、
都心にいる人によっては「電車で5駅の移動もイヤ」という人すらいる。
車で1時間云々以前に都心では車を持つという選択が無い事のほうが多い。
アメリカに比べてとても小さな島国の日本だが、
交通事情と国民性の違いで、
MTGに限らず、都心部以外の場所では案外と過疎化している傾向がある。
また、当たり前の話なのだが、
人それぞれに職や立場が違う。
社会人になったら、年収も人それぞれ、
休みもばらばら、既婚者と独身者の違いも影響してくる。
今まで同じ環境、同じ時間を過ごせた人たちが、
色々な理由でばらばらになる事がある。
その中でも、就職と結婚は非常に大きな影響がある。
MTGに独身者は確かに多いのだが、
それでも年月が経てば結婚する者はいるし、
結婚を機に引退する人もいれば、続ける人もいる。
土日以外の休みでも、結婚後の多忙さでも、
カードショップに軽く足を運んでMTGが出来るかどうかは、
人口の集中する都心部はある程度可能だ。
週末でなくともカードショップに人がいる都心は非常に有利だ。
これが地方だと案外厳しい。
Cardshop Serraは静岡県にある。
都心部の人から見ればド田舎だが、
東京と大阪の間にあり、
その2都市をつなぐ高速道路と新幹線があるだけ恵まれた地域だ。
静岡県よりも田舎の地方となると、
その場所にもよるが、
MTGで遊ぶだけでも大変という地域はある。
静岡県でも伊豆あたりは確実にMTGをするだけで一苦労の地域だ。
以前に伊豆の下田市(伊豆の端の方)から来るお客様がいたが、
車で2時間以上かかると言っていた。
往復を考えると遊べる時間を削られてしまうのがよくわかる。
Cardshop Serraはどうにかこうにか潰れてはいないものの、
ここ数年で、静岡県内でもおもちゃ屋やトレカ屋が潰れた。
どちらもMTG専門店ではなかったが、
MTGの取扱もしていたお店だった。
都心部でも家賃や人件費の問題で潰れるショップはもちろんある。
が、地方は単純に人口の少なさ(お客様の少なさ)で経営が立ち行かない。
週末でなくともカードショップに人がいる都心部と違い、
週末以外は閑散としているショップは多い。
加えて、ここに追い打ちをかける問題がある。
Wizards Play Network(ウィザーズ・プレイ・ネットワーク)
略してWPN
というものをご存知だろうか。
昨今の公認大会はショップがこのWPNを通して開催しなければならない。
MTGを取り扱うショップはWPNを通さないと新商品の仕入れも難しい。
ショップはWPNに登録をしなければならないようなものだ。
WPNにはショップランクがあり、
ショップは一定の大会数や一定のDCIナンバー発行数という実績がないと、
このショップランクを落とされ、
プレミア商品を卸してもらえない。
通常の新セット商品であれば最低ランクでも卸してもらえるが、
一部の少数生産プレミアムアイテムはショップランク次第で、
数量を決められてしまう。
つまり、
「都心部では大きなショップは実績を重ねて小さなお店を圧倒し、
小さなお店は圧倒されてより実績を無くして経営がつらくなり、
地方は根本的に実績を大きくする事が難しい。」
という構図が出来上がるのである。
そういう背景を知っている地方の方々ならば、
「MTGって本当に流行ってるの?」
「MTGの市場が大きくなっているの?」
と疑問に思って当然であり、
その理由の1つがこういう事情である。
実績のないお店にプレミア商品を卸したくないというのも仕方のない事だとは理解出来るのだが。
加えてレギュレーションの問題もある。
レガシー、ヴィンテージ、オールドスクール、
モダン、パウパー、スタンダード、
リミテッド、EDH・・・遊び方はあまりに多い。
全てやっている人などいないだろう。
これらの大会を都心部なら色々な形で人を集められる事もあるだろうが、
地方では一部のレギュレーションで8人集める事が難しい。
当然、人が集まらない大会を企画し続ける事など出来ない。
そうなると相応に地方色になっていくのだが、
そこには並々ならぬお店の労働力が要求される。
それでいてWPNで首を絞められるのだから地方のショップは非常につらい。
また、多少なり遊戯王とのユーザーバランスもある。
遊戯王のお膝元は日本であり、
遊戯王は日本ではある一定の強さがある。
これは日本以外の国との明らかな違いがある。
それは言うまでもなく、
集英社の存在とアニメの存在である。
雑誌やアニメの広告力は絶大だ。
MTGにも漫画が無かったわけではない。
太古の昔にRPGマガジンという雑誌に、
「デュエルファイター刃」
という漫画が連載されていたが、
月刊誌であるうえに、
雑誌がマイナー過ぎて広告塔とはなり得なかった。
このデュエルファイター刃、キャラクターに魅力があり、
対戦シーンも結構良かったのだが、
いかんせん、月刊誌というのが最大のネックになった。
やっているゲームがローテーションのないレギュレーション(レガシーやヴィンテージ等)
だったら良かったのだが、
スタンダードを月刊誌の漫画でやるのは無理があった。
言うまでもなく、
数ヶ月に一回新しいセットが出てしまうスタンダードを月刊誌で描くと、
恐ろしい勢いでズレが生じてしまう。
これは当時の読者からも相当に突っ込まれていた。
余談になるが、
クラウドファンディングで
「レギュレーションをレガシーにして、デュエルファイター刃2を作者に描いてもらう。」
をやってみたいほど、この漫画は好きだ。
MTGも週刊誌連載+定期的なアニメ化でもすれば大きく変化するところだろうが、
アメリカがお膝元であるMTGは定常化が難しそうだ。
MTGの市場の大きさは先程も述べた通り、
大人の使うお金の額が大きいので、
MTG歴が長い、または復帰組の大人が増えれば、
単純に市場は大きくなる。
けれども、
地方のプレイヤー数の少なさや、
日本で強いアニメと漫画という2点でMTGが弱いなど、
日本の都心部以外のユーザー視点では、
他のゲームの強さが目立ってしまう事は否めない。
実際にGPの人数を考えてみても
プレイヤーの高齢化の話は大きく絡んでくる。
GPの参加人数はここ数年で四桁にならなかった事は無い。
これも表だけ見れば
「MTGが流行っている。」
「MTGの市場が大きくなっている。」
という事になるが実際は結構怪しい。
GPに参加するというのも、
考えてみれば学生にはとても厳しい。
大昔のGP参加費は1人5000円以下だったが、
その大昔の学生さん達は当然そんなお金は払える人は少ない。
考えてみよう。
昔のGPの参加費は3000円と格安としても、
宿泊費:安宿に素泊まりでもそんなに安くない。
交通費:住んでいる場所と開催されるGPの場所による。
滞在費:食べる物次第。
これが1回のGPの費用とすると、
結構な出費となる。
ところが現在はどうだろう。
GPの参加費は10000円超えでも4桁人数。
宿泊費、交通費、滞在費なんてものは、
昔も今もそれほど変わるようなものではない。
(税金が上がったので少々は上がっているが。)
相変わらず学生さんには無理がある。
大人になり、収入もある程度になったプレイヤーが、
「学生の頃行けなかったし。」
「今なら有給休暇1日か2日の申請さえ通れば行けるし。」
と言えるようになった。
そのおかげでGPは増えたのだと思う。
「たまに開催されるGPだから、
ちょっと無理してでも。」
という気持ちの人が多いのだろう。
ここでも、支払うお金、参加人数としては確かに増えているので、
市場が大きくなっていると言っても良いのだが、
流行っているという言葉とイコールにする事は正しくない。
それに、GPの参加費、サイドイベントの参加費には、
うんざりしているプレイヤーも多いのだ。
こういった色々な観点から、
質問者の方の市場と流行りの認識は決して間違っていない。
日本のMTGが流行っている
市場が大きくなっている
と本当に言える状態になるには、
もう1つくらい爆発する要素が必要で、
現状、WotC社はその爆発する要素をつかみきれていない。
今後、改善される事を祈ろう。
ではまた。