マジックと投資その1
記事作成日:2018/06/20 執筆:加藤英宝
お客様に言われた事が何度もある言葉がある。
「EDHで高額カードに手を出したいんですが、
何から手を出したらいいですか?」
「昔のカードに手を出すとしたら、
何から買ったらいいですか?」
MTGはカードゲームであって一般的には投資というものではないかもしれないが、
高額な品を買う際に損をしたくない気持ちは誰にでもあるはずだ。
自分はもうMTGの世界に足を突っ込んで相当な年月が経っている。
古参のプレイヤーの中ではMTGを投資対象として見て、
比較的失敗をしていないタイプだろうと自負している。
そんな自分はこの質問に対し、
常に同じ回答をしている。
「これ以上強く作りようのない強力なカードを買いなさい。」
まず、この一言。
ちょっと考えてみるとわかる。
《Tundra》
土地 — 平地(Plains) 島(Island)
((T):あなたのマナ・プールに(白)か(青)を加える。)
《Tundra》を例にとってみよう。
このカードと互換性のあるカードをここに挙げてみる。
《アダーカー荒原/Adarkar Wastes》
《Land Cap》
《サラカスの低地/Thalakos Lowlands》
《沿岸の塔/Coastal Tower》
《広漠なるスカイクラウド/Skycloud Expanse》
《頂雲の湖/Cloudcrest Lake》
《神聖なる泉/Hallowed Fountain》
《アゾリウスの大法官庁/Azorius Chancery》
《ボリアルの氷棚/Boreal Shelf》
《石灰の池/Calciform Pools》
《雨雲の迷路/Nimbus Maze》
《ワンダーワインの分岐点/Wanderwine Hub》
《秘教の門/Mystic Gate》
《氷河の城砦/Glacial Fortress》
《セジーリの隠れ家/Sejiri Refuge》
《天界の列柱/Celestial Colonnade》
《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
《アゾリウスのギルド門/Azorius Guildgate》
《啓蒙の神殿/Temple of Enlightenment》
《平穏な入り江/Tranquil Cove》
《大草原の川/Prairie Stream》
《曲がりくねる川/Meandering River》
《港町/Port Town》
《灌漑農地/Irrigated Farmland》
《雲海/Sea of Clouds》
最低でもこれだけの数の互換性のあるカードはあるが、
(フェッチランドは役目が違うのであえて除外。)
全てのカードは《Tundra》の下位互換である。
頭の悪い中二病患者は
「《Tundra》は基本地形タイプを持ってるから、
《野火/Flashfires》や《沸騰/Boil》で壊れる。
だから《Tundra》は他の白青土地カードの完全上位じゃない!」
などと言い出しそうだが、
そういう馬鹿はさっさとこのブラウザを閉じていただきたい。
少なくともそういう馬鹿のためにこの文章を書いているわけではない。
何故《Tundra》が高額カードであるのか考えてみれば、
何が上位で何が下位であるかは一目瞭然である。
どれだけの数の互換性あるカードが出ようとも、
何があっても《Tundra》より上など出る事は考えにくい。
例えば、
《Tundra》と同じように完全にデメリット無しでアンタップ状態で出て、
基本土地タイプを2種持ち、
場に出したら1ライフ得るだとか、
占術1をするだとか、
オマケ能力などつけるとは思えない。
ゲームバランスとMTGの歴史上まず作らないのである。
つまり、《Tundra》はこの白青の土地において最上級である。
他のデュアルランドにおいても理屈は同じである。
土地だけではわかりにくいならば、
《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
《魔力の墓所/Mana Crypt》
などを考えてみてはどうだろう。
《タルモゴイフ》より強い緑の2マナ生物など考えられるだろうか?
(能力持ちは除外。)
このカードの互換性と、
《タルモゴイフ》の入るデッキのアーキタイプから考えて、
あれほどのコストパフォーマンスを誇る生物は他に無いだろう。
《Tundra》のように簡単に互換性あるカードを探す事は出来ないが、
2マナで2/2以上の能力で《タルモゴイフ》を超えている事などまず無い。
《魔力の墓所》については
デメリットを消して1マナにした《太陽の指輪/Sol Ring》があるが、
1マナと0マナでは全く違うものであり、
大量に再録されている《太陽の指輪》と、
少量印刷しかされていない《魔力の墓所》では
話題としては別になると言ってもいい。
《魔力の墓所》も《太陽の指輪》もどちらも最上級である。
《魔力の墓所》には互換性のあるカードなどほとんど存在しない。
例えば、
0マナ
アーティファクト
あなたのアップキープの開始時に、コインを1枚投げる。
あなたがコイン投げに負けた場合、~はあなたに2点のダメージを与える。
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。
もしくは、
0マナ
アーティファクト
あなたのアップキープの開始時に、コインを1枚投げる。
あなたがコイン投げに負けた場合、~はあなたに5点のダメージを与える。
(T):あなたのマナ・プールに(3)を加える。
といったカードは存在していないし、
作られる事もないだろう。
この
「作られる事もないだろう。」
という予測のもとに、
最上級カードを購入する事が最善の一手である。
誤解の無いように書いておけば、
「MTGのゲームバランスを考慮したら、
上位互換カードが作られる事はいくらなんでも無いだろうと、
誰もが思う程の最上級カード。」
である。
最初の《Tundra》の話題のところで出たフェッチランドも実は最上級カードである。
何度かの再録(プロモ、タルキール、戦乱のゼンディカー等)をされているが、
このフェッチランドも、
「これ以上強く作りようのない強力なカード」
の1つである。
このカードから1ライフ払わないで生け贄のみで起動可能な完全上位互換など、
まず考えにくい。
作られる事など現状想像出来ない。
これ以上強く作りようのない強力なカードは、
その後何年の時間が経っても、
バランスを重視している制作スタッフが作る可能性は低い。
(そのわりに作らなくてもいいシステムを作る事もあるが。)
WotCは
・高額カードを新しいセットのコモンや構築済みデッキで再録。
・次から次へと上位互換カードを制作。
・困ったら禁止。
といった行動は滅多な事ではやらない。
もっとも、禁止カードだけは過去に2度、
禁止改訂発表から数日後に追加禁止カードをやってしまったが。
(《記憶の壺/Memory Jar》と《守護フェリダー/Felidar Guardian》)
通常であれば、
プレイヤーが次々とこういった事で振り回されるような事は無い。
MTGの良いところの1つは、
レギュレーションの変化や多少の禁止カードはあろうとも、
身勝手なルール変更と上位互換カードの登場で、
プレイヤーがひどく振り回される事が少ない事である。
なお、弱いカードだらけのカードセットで小売店が振り回される事はよくある。
だいたいにおいて、
《Black Lotus》を再録する事はありえるだろうか?
《Ancestral Recall》は?
《Time Walk》は?
パワー9はどれであっても再録しないだろう。
デュアルランドもそうだし、
《Gauntlet of Might》もそうだ。
では、
《Force of Will》より凶悪なピッチカウンタースペルが生まれるだろうか?
あれだけレガシーとヴィンテージを席巻するカードの上位互換など生まれようもない。
《Moat》よりも強力な白の攻撃制限エンチャントが出るとも思えない。
MTGの歴史の中で、
クリーチャーの質だけは昔よりも今のほうが強力なものはある。
《セラの天使/Serra Angel》は昔は白最強の生物と言われたが、
今は上位互換クラスのカードが結構出ている。
コストが安く優秀な生物たちがトーナメントを席巻する世界だ。
構築戦のトーナメントで《セラの天使》を見る事はもう無いだろう。
しかし、特定の呪文カードは何があっても昔のカードに勝るものはない。
そしてそれらのカードは再録される可能性がとても低い。
一例では《対抗呪文/Counter Spell》だ。
これでさえもう何年も基本セットに再録されていない。
《対抗呪文》はレアカードではないので、
高額になっていないが、
今のところスタンダード環境に再録される可能性は低いし、
これ以上に強いカードを新しくデザインする事もないだろう。
(ルール変更によりマナバーンがなくなり、
完全上位互換となった《Mana Drain》だけは根本的に別だ。)
それゆえに、
よほどの事が無い限りは
「これ以上強く作りようのない強力なカード」
という条件を満たしつつ、
「再録の可能性が低いカード」
は買いである。
「これ以上強く作りようがない強力なカード」でありながら、
再録を何度もされている安いカードももちろん買いではある。
最もわかりやすいカードでは《稲妻/Lightning Bolt》だろうか。
強力だが複数回の再録をされているカードは、
ゲームを楽しむうえでは必須に近いカードだが、
投資をする対象ではない。
MTGは娯楽であり趣味である面からは、
投資にだけこだわる事は正解ではないが、
やはり買い物をする際に損をしたくないと思う気持ちは皆一緒のはずだ。
そのため、
「これ以上強く作りようのない強力なカード」
で、
「再録の可能性が低いカード」
はお薦めなのである。
お客様から相談を受けた際には、
必ずこういった回答をしている。
今後、読んだ方が古いカードを買いたいと思った時、
この一言を思い出してのお買い物をお薦めしたい。
MTGは「遊べる株券」の異名をとるほどである事から、
高額カードの購入は娯楽でありながらも、
投資である一面も持っている。
高額カード購入の際は慎重にご決断を。
ではまた。