売れたセット、売れなかったセット
記事作成日:2018/04/24 執筆:加藤英宝
ツイッター質問箱でこのような質問をいただいた。
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おおよそで良いので今まで売れたセットトップ3と、
ワースト3を(額面でなく枚数で)
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という質問。
これを回答するにあたり、
どのセットが売れたか、売れてないかというものは、
多少感覚的なものが入ってしまう事をご了承願いたい。
長くMTGで仕事をしているという事は、
相当なセットを扱い、シングルカードと未開封パックを売ってきた事でもあり、
また、他店の売れ行き等とは違った結果である可能性もある、
という事もご了承願いたい。
まずは売れなかったセットのほうから。
3位:イニストラードを覆う影
これはひどかった。
ここ数年のセットでも特に売れなかった。
ボックスもシングルカードも惨敗。
このあたりのセットから、
「新セットのプレインズウォーカーはとりあえずそこそこの値がつく」
という、
「新セットプレインズウォーカーご祝儀価格」
みたいなものが無くなった。
セットが出てから既に数年、
シングルカードもそれほどの枚数は出ていかない。
活躍の場が0ではないが、
《先駆ける者、ナヒリ/Nahiri, the Harbinger》もそこまで高くない。
お店の規模を縮小する羽目になったり、
潰れるショップもこの頃にあったとか。
2位:異界月
3位と同ブロックのセットが売れなかったセット2位にランクイン。
ダブルでひどいこのブロック。
異界月には、
《約束された終末、エムラクール/Emrakul, the Promised End》
《最後の望み、リリアナ/Liliana, the Last Hope》
という希望といえば希望といえるカードもあるのだが、
他が売れないうえに、パックも全然売れなかった。
リリアナについても《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》という、
もっと強い同じ3マナのリリアナさんがレガシーでご活躍されていたので、
こちらのカードがスタンダード専用機と見なされた事も痛い。
(発売からしばらくした後のルール変更で、
同じプレインズウォーカータイプを持つ別名のプレインズウォーカーを並べられるようになったほか、
《若き紅蓮術士/Young Pyromancer》などの、
タフネス1の強力なクリーチャーを小プラス能力で除去できるため、
評価を見直されはしたが)
さらに、強い事は間違いなかったのだが、
《約束された終末、エムラクール》がスタンダードで禁止された事も痛かった。
こちらも元祖の《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》が、
やっぱりレガシーでご活躍なので、
極端なほどの需要には至らない。
1位:プロフェシー
もうこれだけは不動と思われる最悪のカードセットではないかと思う程。
ただでさえセット内容が弱いのに、ひどいトラブルがあった。
これは当時を知っている人しか知らないお話なのだが、
「日本語版の初版のアンコモンソートの一部に中国語版が混入」
というもの。
この当時の販売代理店であったホビージャパンは、これに対し、
「パックを全部開封して、
日本語版である事を確認してから、
問屋さんに卸して、お店に届くようにする。」
というとんでもない対応をした。
これはどういう事かというと、
ボックスを買おうがパックを買おうが、
もう開封済み状態なのだ。
これは確実に購買意欲を削がれた人もいた。
未開封パックを開けるのが楽しい人もいるのだから。
開幕からこの状態に加えて、
セットも弱かったので、とにかく不人気セットだった。
そして情けない事に、
現在このセットで一番高いカードは
《リスティックの研究/Rhystic Study》(コモン)
である。
EDH需要かパウパー需要くらいしか考えられないカードなのだが、
コモンが一番高いカードというのだから悲しくなってくる。
本当にただただひどいセットだったとしか言いようがない。
お客様にも平謝りしながら、
「これしか無いんです。本当にこの状態で問屋から来たんです。
こちらでは何かのカードを抜くような事は一切していません。」
と説明するより他が無かった。
説明する立場からすると、
それでも疑われて買ってもらえないという事もあり、
とても悲しかった。
また、ホビージャパンもこれに対して一切責任をとるような事もなかった。
さすがに企業の対応としてはこれは無いだろうと、
あの当時誰もが言う程ひどかった。
プロフェシーが出てからもう何年も経っていて、
シングルカードの売れ行きを見ているが、
やっぱり他のセットに比べてあまり良くない。
トラブル対応も良くなかったが、
カードセットそのものも良くなかったのがよくわかる。
なお、当時、
マスクス-ネメシス-プロフェシー
でドラフトをやっても、
「つまんない。」
と言うお客様は多かった。
このプロフェシーよりひどいセットは、
いくらなんでも今後作られる事は無いと思いたい。
全体として、といってもプロフェシーはおおまかな事は書いたので、
残り2つのセットのお話がほとんどになるが、
この2つのセットはやはり両面カードも良くなかった要因の1つだっただろう。
事あるごとに両面カードは褒める事が出来ない自分だが、
一人の意見ではなく、
周囲の意見も含めている事もあるし、
実際のプレイでも非常に面倒になる事ばかりなのだ。
・変身時にスリーブからカードを抜いてひっくり返す等のアクションが面倒。
(そのたびにカードが痛む可能性もあるのでデメリットは2倍。)
・カードの効果がわからない時に両面を見なければいけない。
(対戦相手が効果確認時にもひっくり返す手間が発生する。)
・両面カードのためのチェックカードという、
公式が認める代用の存在も問題だが、
チェックミスや見間違いなども含めて混乱の元になっている。
この3つはどれも時間のロスを生むので、
トーナメントでの試合時間のロスとして何も嬉しくない。
これはどれだけ両面カードが好きな人でも否定出来ない現実だろう。
限られた時間で勝負をつけなければいけない競技であるのだから、
必要のないロス時間をメーカーに作らされる事は正しいと言えない。
競技に真剣である人ほど、
両面カードは不要という事は理解してもらえるはずだ。
さらに、
競技性でももう1つ問題がある。
「ドラフト時にとった両面カードは公開情報とする」
というルール。
ドラフトの楽しみを半減してしまうこのルールは、
競技性を失いかねない。
加えて、コレクション時に、
「裏側にMTGのロゴが無い。」
というのはやっぱり嬉しくないのだ。
カードアルバムに入れてページをめくると、
「なんかここだけ変。」
となってしまうのはコレクターとして嬉しくない。
この意見も自分だけのものではない。
店主は何もかもを否定しているのではない事もここに書いておこう。
作るならもう少し上手に出来なかったのかと思っているだけなのだ。
競技性を真剣に考えた際に、
不要なロス時間をメーカーが作るべきではないと言っているのであって、
決して「なんとなく嫌い」だとか「気に入らない」といった感情論ではない。
このイニストラードを覆う影と異界月の2つで、
「10年、この仕事で食ってきたが、
初めて年間通して赤字になった。」
と言っていた同業者もいた。
この同業者は結構商売が上手な方だったので、
そんな方が赤字転落するほどなのか!
と驚いた。
そのくらいこの2つのセットはその方にとっても惨敗のセットだったようだ。
この方とは別の同業の方からも、
「まずい、この2つのセットは本当にまずい。
パックが全然売れない。
赤字覚悟の金額に設定しても売れない。」
と嘆いていた。
こういう結果を見ても思うのだが、
カードの作り方に問題があったのではないだろうか。
そういえばプロフェシーで書き忘れた事が1つあった。
プロフェシーは現在までのFoilが存在するセットの中で、
おそらくこのセットだけ、
1パック15枚全てがFoilになっている事がある。
滅多に引けない大当たり?なので、
知らない人も多いだろう。
店主は2度引いた事がある。
まぁ、全部光っていても一番高いカードが《リスティックの研究》なセットなので、
それほど嬉しいものがあるわけではないという。
他のセットでやってくれたら面白いのに。
さてネガティブな話題から今度は売れたカードセットトップ3にお話を。
売れなかった話より、
売れた話のほうが書いていて楽しい。
3位:インベイジョン
前述の悪名高きプロフェシーの直後だったからなのか、
マルチカラーカードが多く入ったカードセットだったからなのか、
このセットは大人気だった。
3色のドラゴン・レジェンド5種も人気があり、
中にはトーナメントで活躍するドラゴンもいた。
そして、カウンター出来ない火力《ウルザの激怒/Urza’s Rage》
カウンター出来ない大破壊呪文《抹消/Obliterate》
この2つも衝撃的で人気があった。
《蝕み/Undermine》と《吸収/Absorb》も、
当時広く使われたカウンター呪文だった。
加えて、青の最強のドロー呪文とさえ言われ、
ヴィンテージで1枚制限になった事まである(現在は解禁されている)
《嘘か真か/Fact or Fiction》もこのセットが初出だ。
イクサランで再録され、活躍中の《選択/Opt》もこのセットが初出。
発売日から二ヶ月を超えても、
未開封のボックスを買う人が結構いるくらいに人気があった。
当時のスタンダードは多種多様のデッキが生まれ、
MTG歴の長い人の中には、
「この時代ほどスタンダードが楽しかった時期はない。」
と言う程。
これの後に出たプレーンシフト、アポカリプスを含めて、
多色のカードが楽しい素晴らしいセットだった。
個人的にもこのインベイジョン・ブロックは大好きである。
今でもこの3つでドラフトをやりたいくらいである。
2位:戦乱のゼンディカー
これが売れた理由は説明不要ではなかろうか。
Zendikar Expeditions(ゼンディカーエクスペディション)と呼ばれる、
25種の土地が何箱かに1枚入っていた事が大きい。
このZendikar Expeditionsはゲートウォッチの誓いにも入ったが、
ギルドランドとフェッチランドがある、
戦乱のゼンディカーの衝撃は大きかった。
特にフェッチランドがこんな形の再録をされるとは思わず、
多くの人がこれを求めてパック、ボックスを買った。
バトルランドも不人気だったわけではないが、
フェッチランドとギルドランドの計20種の前では、
少々霞んでしまっただけ。
戦乱のゼンディカー収録の一般カードより、
このZendikar Expeditionsがとにかく話題をさらったセットだった。
コレクターの中には全フェッチランドをこれで揃えた猛者もいただろう。
知り合いの中には、
「自分だけで24箱は開封した。」
と言っていた人もいた。
一般カードが全く話題にならなかったわけではなく、
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar》
《絶え間ない飢餓、ウラモグ/Ulamog, the Ceaseless Hunger》
など、強力で衝撃的なカードは非常に話題になった。
特に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》はキャスト時のパーマネント2枚追放が強く、
EDHではかなり好まれるエルドラージの1つだ。
この後に出るゲートウォッチの誓いのZendikar Expeditionsは、
大ハズレでは無かったが、フェッチランドのように、
「誰もが欲しがる」
のレベルにならなかった事もあり、売上はガクンと落ちた。
1位:タルキール覇王譚
これが売れた理由も説明不要ではなかろうか。
3位と2位の理由を足して2で割ったような感じ。
多色のカードあり、
フェッチランド再録あり、
カードセットもそれなりに人気あり、
といいところ尽くしと感じたプレイヤーが多かったのだろう。
この頃、よく聞いたお客様の言葉は、
「10パック買ってフェッチ1枚出ればもとがとれる。」
「運良くフェッチが光れば勝ち。」
だった。
ボックスのフェッチランド封入率は期待値2.5枚とも言われていたので、
このくらいの賭けをする方が多かったのも頷ける。
そして、このセットには、
各レギュレーションで禁止や制限を食らう事になる、
《宝船の巡航/Treasure Cruise》
《時を越えた探索/Dig Through Time》
という2枚の青の凶悪ドロー呪文の登場も大きかった。
当然、禁止や制限を食らってしまえば値段は下がってしまうのだが、
そうでない時間はこの2枚は当然のごとくシングルでも大人気。
《宝船の巡航》に至っては、
モダン、レガシー、パウパーで禁止、ヴィンテージで1枚制限。
これがコモンだというのだから驚きである。
見どころはこの青2枚とフェッチランドだけにとどまらず、
《僧院の速槍/Monastery Swiftspear》という優秀なアンコモン、
一時代を築き上げた
《ジェスカイの隆盛/Jeskai Ascendancy》
《先頭に立つもの、アナフェンザ/Anafenza, the Foremost》
《凶暴な拳刃/Savage Knuckleblade》
《包囲サイ/Siege Rhino》
などなど、スタンダードの環境を変えるカードは多かった。
EDHの観点で見ても、
《兜砕きのズルゴ/Zurgo Helmsmasher》
《悟った達人、ナーセット/Narset, Enlightened Master》
がタルキール覇王譚で登場している。
簡単に言って、
全環境に影響を与え、
(良い影響も制限や禁止といった悪い影響も含めて)
かなりの人が喜んでパックを買ったセットだった。
制限や禁止といった悪い影響と書いているものの、
それは、
「強すぎる、ゲームバランスを著しく変化させてしまう。」
という理由なので、
プレイヤーにとっては強いカードが出た事は喜ばしい事だった。
(弱いカードが出て喜ぶ人はいないので当たり前なのだが)
戦乱のゼンディカーのような博打的要素よりも、
(またはコレクター要素)
タルキール覇王譚は実用面での人気が強く、
そういった意味でも多くの人にとって嬉しいセットだったのではないだろうか。
全体として。
インベイジョン、タルキール覇王譚は実用面、
戦乱のゼンディカーは博打的要素ではありながらも、
フェッチランドとギルドランドは当然実用面。
人気の理由は誰もが納得と言えるものだろう。
ちなみに他では、
ラヴニカブロック(ラヴニカ、ギルドパクト、ディセンション)
ラヴニカへの回帰ブロック(ラヴニカへの回帰、ギルド門侵犯、ドラゴンの迷路)
も結構売れた。
ギルドランドの存在と多色カードはやっぱり一定の人気がある。
よくドラゴンの迷路だけはあまり売れないというか、
今でこそ特価で扱われてしまう事もあるが、
それでも当時は結構売れたものだったのだ。
こうして見てみると、
やはり多色カードには夢があるのだろうか。
多色カードセットの時は売れ行きが良い事が多い。
以上、
売れなかったカードセットワースト3
売れたカードセットトップ3
でした。
ではまた。